従業員エンゲージメントを高めたいと考えていても、「何から見直せばよいのか分からない」「施策を実施しているのに変化を感じられない」と悩むことはないでしょうか。従業員エンゲージメントは、組織との関係をいくつかの要素に分けて捉えると、自社が抱えている課題を考えやすくなります。
今回の記事では、従業員エンゲージメントを「理解度」「帰属意識」「行動意欲」の3要素に分け、それぞれの意味や低下した場合に起こり得る課題を解説します。さらに、不足している要素の見極め方や、要素に応じて施策を考える視点にも触れていきます。
従業員エンゲージメントを漠然と高めようとするのではなく、自社の状態に合った取り組みを考えたい方は、ぜひ参考にしてください。

従業員エンゲージメントを改善する際は、組織全体の数値だけを見るのではなく、どの部分に課題があるのかを把握するために、要素に分けて捉えることがポイントです。「エンゲージメントを高めたい」という目的だけでは、理念の共有を強化すべきなのか、従業員同士の関係を見直すべきなのか、具体的な方向性を判断しにくいためです。
従業員エンゲージメントの捉え方には複数あります。厚生労働省は、従業員エンゲージメントについて次の観点を示しています。
また、人事コンサルティング会社のAon Hewitt社は、エンゲージメントを次の3つの行動から捉えています。
こうした整理を踏まえると、従業員エンゲージメントは「理解度」「帰属意識」「行動意欲」の3つの要素に分けて考えられます。以降では、この3要素に沿って解説します。
なお、厚生労働省やAon Hewittが、この3つの名称で分類しているわけではありません。両者が示す観点をもとに、組織課題を捉えやすいよう整理した区分です。
出典:厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」/Aon Hewitt「2017 Trends in Global Employee Engagement」
従業員エンゲージメントそのものの意味や重要性については、関連記事「従業員エンゲージメントとは」で詳しく解説しています。

従業員エンゲージメントの構成要素は、次の3つです。
この3つは、独立しているわけではありません。組織の方向性を理解し、組織とのつながりを感じ、それが貢献への意欲へ結びつく、という関係で捉えることがポイントです。
それぞれの要素を詳しく見ていきましょう。
理解度とは、企業の理念やビジョン、経営方針を知り、自分の仕事との関係まで捉えられているかを見る要素です。
掲げられている言葉を覚えているだけでは、十分な理解とはいえません。たとえば、会社が「顧客第一」を方針として掲げている場合、自分の業務では何を優先し、どのような判断が求められるのかまで結びつけられることが重要です。組織がどこを目指しているのか、その背景には何があるのか、自分の役割がどのように関わるのかが分かると、日々の業務にも目的を持ちやすくなります。
厚生労働省も、従業員エンゲージメントを捉える観点として「組織が目指す方向性への理解」を示しています。理解度は、その後の共感や行動を考える土台となる要素です。
帰属意識とは、組織の理念や価値観・目標に共感し、「この組織の一員として働いていきたい」と感じられているかを見る要素です。方向性を理解しているだけでなく、自分自身の価値観や働く目的との接点を感じられていることが重要になります。
帰属意識には、企業理念への共感に加えて、上司や同僚との関係、自分の仕事や日々の貢献が認められているという感覚も関わります。組織の方針を理解していても、「自分には関係がない」「ここで働く意味を感じられない」と受け止めていれば、組織との心理的な結びつきは弱くなります。
厚生労働省が示す「個人と組織の方向性の重なり」にも近い視点です。組織が目指す方向と自分の考えに接点を見いだせるかどうかが、帰属意識を考えるうえで重要になります。なお、帰属意識は「共感度」と呼ばれることもあります。
行動意欲とは、組織の方向性への理解や共感をもとに、自ら組織へ貢献しようとする気持ちを指します。厚生労働省が示す「組織への貢献意欲」と同じような意味合いであり、理解や共感が実際の行動につながっているかを見る要素です。
行動意欲は、与えられた業務をこなしているかどうかだけでは判断できません。業務上の課題に気づいて改善案を出す、困っている同僚を支援する、部署を越えて協力するといった自発的な行動にも表れます。
Aon HewittのSay・Stay・Striveモデルでは、Strive(ストライブ)は組織の成功に向けて最善を尽くそうとする意欲として示されています。理解や共感があっても行動につながっていない場合には、行動意欲の面に課題がないかを見る視点が必要です。

理解度・帰属意識・行動意欲のいずれかが低下すると、理念が日々の業務に反映されない、主体的な行動が減るなど、組織運営にも影響が表れることがあります。
ここでは、要素の低下によって起こり得る具体的な課題を解説します。
理解度や帰属意識が不足すると、企業理念やビジョンを掲げていても、日々の判断や行動に反映されにくくなります。従業員が理念の言葉を知っていても、その背景や自分の業務との関係が分からなければ、具体的な行動の基準にはなりません。
また、理念の内容を理解していても、自分の価値観や仕事との接点を感じられなければ、共感にはつながりにくいでしょう。その結果、理念が社内資料や掲示物に書かれているだけのものとなり形骸化し、実際の仕事では意識されない状況も生まれます。
理念浸透に課題がある場合は、発信回数だけを見るのではなく、従業員が内容を理解できているのか、さらに共感までつながっているのかを考えることがポイントです。
行動意欲が低い場合、自分から改善案を出したり、周囲を支援したりする行動が減り、指示された範囲だけで仕事を進める従業員が増えていきます。
組織の方向性を理解していても、自分が貢献したいと思えていなければ、「求められた仕事だけを終えればよい」という意識につながりかねません。反対に、自分の役割や貢献の意味が分かり、周囲から認められていると感じられる環境では、自発的な提案や協力も生まれます。
主体性の低下が見られる場合は、個人の意欲だけを問題にするのではなく、組織との関係や、貢献が認識される環境になっているかまで含めて考えることが大切です。
組織との心理的な結びつきが弱く、自分の仕事や貢献が認められている感覚を持てない状態が続くと、働き続ける意味を感じにくくなる場合があります。成果だけでなく、日頃の支援や工夫などが見過ごされていると感じることも、組織との距離を生む一因になり得ます。
ただし、離職には給与や待遇、キャリア、業務負担、人間関係、家庭事情などさまざまな要因が関係します。帰属意識や貢献実感の低下だけが離職の原因になるわけではありません。
離職率という結果だけを見るのではなく、組織への共感や信頼、貢献を認められている実感が得られているかにも目を向けることで、必要な対応を検討しやすくなります。
帰属意識が弱まると、自分の部署や担当業務だけを優先し、ほかの部署との協力や情報共有に消極的になることがあります。とくに「協力しても評価されない」「ほかの部署の仕事は自分とは関係がない」と感じる環境では、部門を越えた連携が生まれにくくなります。
部署や拠点が分かれている組織では、相手の仕事や貢献を知る機会そのものが少ない場合もあります。接点が乏しい状況で組織への信頼まで弱まれば、組織全体で協力する意識にも影響するでしょう。
連携をスムーズにしたい場合は、情報共有の仕組みだけを増やすのではなく、互いの役割や貢献を知り、信頼関係を築ける環境になっているかを見る必要があります。

従業員エンゲージメントを高めるには、流行している施策を一律に取り入れるのではなく、理解度・帰属意識・行動意欲のどこに不足があるのかを起点に考えることが大切です。まず不足している要素を見極め、その要素に合った施策を選ぶと、取り組みの目的と内容が結びつき、効果も振り返りやすくなります。
不足している要素を見る際は、エンゲージメントサーベイだけで結論を出すのではなく、面談や日頃の対話なども組み合わせる方法があります。全体スコアだけでは、理解度・帰属意識・行動意欲のどこに課題があるのかが見えないためです。
また、全社平均だけを見ると、部署や職種による違いが隠れてしまうこともあります。必要に応じて部署・職種などの属性別に傾向を見たり、前回調査からの変化を追ったりすると、自社で優先すべき要素を考えやすくなります。
理解度に課題がある場合は、理念や経営方針と、従業員一人ひとりの仕事との結びつきを明確にする取り組みが有効です。理念やビジョンを経営層から継続的に発信するだけでなく、「自分の業務が組織のどの方向性につながるのか」を伝えると、掲げられた言葉が日々の判断の基準になります。
全社会議や社内報、日々のミーティングなど複数の場を使って共有し、理念に沿った行動を称賛する機会を設けると、抽象的な言葉だった理念が具体的な行動として理解されやすくなります。
帰属意識に課題がある場合は、組織への共感や、認められているという感覚を育てる取り組みが有効です。日々の貢献を称賛・承認し合う仕組みや、従業員同士が気軽にコミュニケーションを取れる環境を整えると、「この組織の一員として働いている」という実感につながります。
上司から部下への一方向の評価だけでなく、同僚同士や部署を越えて感謝を伝え合えるようにすると、さまざまな立場から貢献を認め合う関係が生まれます。こうした関係の積み重ねが、組織への信頼や愛着を支えます。
行動意欲に課題がある場合は、従業員が自ら考えて動ける機会を用意する取り組みが有効です。上司との1on1で今後の希望や課題を共有したり、キャリア形成を支援したりすると、「自分の成長が組織とつながっている」という感覚が生まれ、自発的な行動を後押しします。
新しい業務や部署を越えたプロジェクトへの参加など、挑戦できる機会を設けることも、貢献意欲を引き出すきっかけになります。理解や共感を実際の行動へつなげる視点で、機会を設計することが大切です。
ここまでの施策の方向性を整理すると、次のようになります。どの要素に課題があるかによって、優先する施策が変わります。
要素 |
想定される課題 |
施策の方向性の一例 |
理解度 |
理念や経営方針と自分の仕事との関係が分からない |
理念・方針の共有、役割との結びつきの明確化 |
帰属意識 |
組織への共感や認められている感覚が乏しい |
称賛・承認、従業員同士のコミュニケーション |
行動意欲 |
自発的な提案や協力につながらない |
1on1、キャリア支援、挑戦機会の設計 |
同じ施策でも、目的や組織の状況によって設計や運用方法は変わります。まずは自社の課題を特定したうえで改善したい要素を定め、その要素に合った施策を優先的に取り組んでいきましょう。

従業員エンゲージメントの3要素を自社の状態把握や改善につなげるうえで、押さえておきたいポイントを紹介していきます。
従業員エンゲージメントには複数の捉え方があり、企業や調査サービスによって、重視する観点や設問の分け方は異なります。本記事では、厚生労働省が示す「組織が目指す方向性への理解」「個人と組織の方向性の重なり」「組織への貢献意欲」などをもとに、「理解度・帰属意識・行動意欲」の3要素として整理しています。
自社で状態を見る際に、3要素を常に同じ比重で扱う必要はありません。たとえば、理念の浸透に課題があるなら理解度、組織への信頼や一体感に課題があるなら帰属意識を重点的に見る考え方があります。基本となる視点を持ちながら、自社の課題や施策の目的に合わせて測定方法を設計することが大切です。
従業員エンゲージメントとワークエンゲージメントは、どちらも3つの要素から説明されることがありますが、着目する対象が異なります。
ワークエンゲージメントは、厚生労働省の資料でも用いられている「活力」「熱意」「没頭」の3側面から、仕事そのものに対する前向きな心理状態を捉える考え方です。
一方、従業員エンゲージメントが着目するのは、組織との関係です。組織の方向性を理解できているか、組織に共感や信頼を持っているか、組織へ貢献したいという意欲があるかを見る考え方です。
仕事そのものとの関係を見るのがワークエンゲージメント、組織との関係を見るのが従業員エンゲージメントと捉えると、違いが分かりやすくなります。
出典:厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」第Ⅱ部 第3章
理解度・帰属意識・行動意欲の状態を見る方法の1つとして、エンゲージメントサーベイに各要素と関係する設問を設け、回答傾向を確認する方法があります。
たとえば、理解度では組織の方向性と自分の役割とのつながり、帰属意識では組織への共感や信頼、行動意欲では組織へ自発的に貢献したいという意欲について尋ねる設計が考えられます。ただし、これらは本記事で整理した3要素に沿った質問例であり、特定の標準尺度を示すものではありません。
1つの質問だけで判断せず、複数の設問や面談、現場の声なども合わせて見ることが大切です。

RECOGは、従業員同士が感謝や称賛を「レター」として送り合える社内SNS型のサービスです。上司から部下への一方向の評価だけでなく、同僚同士や部署を越えて貢献を伝え合えるため、これまで見えにくかった支援や工夫にも光が当たります。認められる経験の積み重ねが、組織の一員として働いているという実感を支えます。
拠点や勤務時間が分かれている組織でも、部署を越えて称賛を届けられるため、接点が少ない相手の仕事や貢献を知るきっかけにもなります。
不足している要素に合わせて改善を進めるなかで、帰属意識や貢献実感に課題が見えた場合は、RECOGの活用もぜひご検討ください。
従業員エンゲージメントを「理解度・帰属意識・行動意欲」の3要素に分けて捉えると、「エンゲージメントが低い」という漠然とした課題から一歩進み、どこを見直すべきかを考えやすくなります。組織の方向性が十分に伝わっていないのか、共感や信頼が不足しているのか、理解や共感が自発的な行動までつながっていないのかによって、必要な取り組みは異なります。
まずはサーベイや対話を通じて不足している要素を捉え、組織の状態に合った施策へつなげることが重要です。とくに帰属意識や貢献実感を支える取り組みの1つとして、日常の感謝や称賛を言葉にし、組織内で共有できる環境づくりが挙げられます。
RECOGでは、従業員同士がレターを通じて感謝や称賛を伝え合い、日々の貢献や行動を可視化できます。従業員エンゲージメント向上に向けたコミュニケーションの仕組みを検討している場合は、RECOGの活用もぜひご検討ください。
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