本記事では、静かな退職の定義や背景、最新の調査データ、そして人事担当者・管理職がすぐに実践できる7つの対策を体系的に解説します。自社の従業員エンゲージメントを高め、組織の生産性を守るためにお役立てください。

静かな退職とは、実際に会社を辞めるわけではないものの、必要最低限の業務だけをこなし、それ以上の積極的な関与を避ける働き方を指します。英語では「Quiet Quitting(クワイエット・クィッティング)」と呼ばれ、2022年にアメリカのキャリアコーチであるブライアン・クリーリー氏がSNSで発信したことをきっかけに、世界中で注目を集めるようになりました。
静かな退職の特徴は、従業員が「辞めたい」と明言するわけでも、業務を放棄するわけでもない点にあります。就業規則を守り、与えられたタスクは遂行するものの、自主的な提案や残業、昇進に向けた努力などは行わないのが典型的な姿です。
静かな退職と混同されやすい言葉に「サイレント退職」があります。両者の違いは明確で、静かな退職は在籍を続けながら最低限の業務をこなす働き方であるのに対し、サイレント退職は周囲に予兆を見せずに突然退職を決断する行動を指すものです。
静かな退職は「辞めないが、熱意もない」状態、サイレント退職は「前触れなく辞める」状態を指します。

静かな退職の深刻さを理解するために、国内外の最新調査データを確認しておきましょう。
まず、マイナビが20代〜50代の正社員3,000名を対象に実施した「正社員の静かな退職に関する調査2025年」では、44.5%が「静かな退職をしている」と回答しています。年代別では20代が46.7%と最多で、50代45.6%、40代44.3%と続き、全年代で4割を超える結果となりました。
一方、パーソル総合研究所が客観的な行動基準で測定した定点調査では、静かな退職者の割合は2025年時点で5.8%でした。ただし、これは2017年比で約1.5倍に増加しており、短期的にも2023年以降上昇傾向にあります。
出典:パーソル総合研究所 定点調査から見える「静かな退職」の動向
主観調査と客観調査で数値に大きな差がある点は注目に値します。「なんとなく熱意を失っている層」と「実際に行動を変えてしまった層」の間には大きなグラデーションが存在し、その"予備軍"を含めると、潜在的なリスクは相当に大きいといえるでしょう。
また、ギャラップ社が2024年に発表した「グローバル職場環境調査」によると、日本の従業員エンゲージメント率はわずか6%で、世界平均23%を大きく下回り最低水準にとどまっています。同社の分析では、従業員エンゲージメントの低さによる日本経済全体の機会損失は年間86兆円以上に上ると試算されており、静かな退職の広がりは個社の問題を超えた社会的課題といえます。
出典:ギャラップ・ジャパン
さらに、GPTW Japan(働きがいのある会社研究所)の2025年調査では、静かな退職を選択した従業員の約4割が「勤め先の環境で変化があっても働き方は変わらない」と回答しています。つまり、静かな退職が定着してしまうと企業側の働きかけが効きにくくなるため、"手遅れ"になる前の早期対応が不可欠なのです。
出典:GPTW Japan 静かな退職に関する調査2025年

静かな退職を効果的に防ぐには、その原因を正しく理解する必要があります。主な要因を5つに整理しました。
静かな退職の最大の引き金となるのが、評価と報酬に対する不満です。努力が正当に認められない環境では、「頑張っても意味がない」という諦めの感情が生まれます。上司からのフィードバックも乏しく、成長の手応えを感じられなければ、最低限の業務だけこなす選択に至るのは自然な流れでしょう。
将来のビジョンが描けない職場環境も、静かな退職を誘発する大きな要因です。マイナビ調査では、静かな退職のきっかけを4タイプに分類しており、そのうち「不一致タイプ」は仕事や環境が自分に合わないと感じて意欲を失ったケース、「評価不満タイプ」は処遇・評価に対する不平不満がきっかけとなったケースを指しています。
どちらのタイプも、「この会社にいても成長できない」という認識が根底にあるといえるでしょう。
同僚や上司との関係が希薄で、職場に居場所がないと感じる従業員は、静かな退職に向かいやすくなります。特にリモートワーク環境では、この傾向が顕著です。物理的な距離が生まれたことで、上司からの声掛けや同僚との雑談といった非公式なコミュニケーションが減少し、孤立感が深まりやすくなっている状況が読み取れます。
仕事中心の生活を当然とする「ハッスルカルチャー」に対する反発も、静かな退職の背景のひとつです。コロナ禍を経て、働き方に対する価値観は大きく変わりました。プライベートや家庭の時間を重視する人が増え、「仕事は生活のための手段」と割り切る考え方が広がっています。
終身雇用制度が崩壊しつつある現在、企業に長くいれば自然にキャリアが築けるという前提は過去のものとなりました。望まない異動や転勤によってキャリアプランが崩れるリスクもあります。
その結果、組織に依存せず自分でキャリアを切り拓こうとする「キャリア自律」の意識が高まり、自社の業務は収入を得る手段と割り切って静かな退職を選ぶ従業員が増えているのです。

静かな退職は目に見えにくいからこそ、日常の変化を敏感に察知することが重要です。特に注意すべき3つのサインを紹介します。
以前は自発的に提案やアイデア出しをしていた社員が、指示された業務だけを淡々とこなすようになった場合、静かな退職の初期段階である可能性が高いといえます。新しいプロジェクトへの参加意欲が低下したり、会議で発言が減ったりする変化も見逃さないようにしましょう。
ランチや飲み会への参加を断るようになった、チャットでの雑談に加わらなくなった、といった変化も重要なシグナルです。業務上の連絡は問題なく行うものの、それ以外の人間関係構築を避ける傾向がある場合は注意が必要でしょう。
研修やスキルアップの機会に興味を示さなくなった、目標設定面談で受動的な態度を取るようになった、といった変化は、静かな退職が進行しているサインです。「どうせ頑張っても変わらない」という心理が背景にあるケースが多いため、原因の特定と早期のフォローが求められます。

静かな退職は、表面的には業務が回っているように見えるため放置されがちです。しかし、そのまま対応しなければ、組織に深刻なダメージをもたらします。
静かな退職の状態にある従業員は、本来発揮できるはずの創意工夫や主体的な改善提案を行ないません。表面上は業務が遂行されていても、イノベーションや付加価値の創出は止まっている状態です。個人の静かな退職が組織の生産性に与える影響は、無視できないものです。
静かな退職の最も厄介な側面は、その「伝染性」にあります。一人の静かな退職が、周囲の意欲ある従業員のモチベーションを低下させ、「自分だけ頑張るのは損だ」という空気を生み出しかねません。
静かな退職は、いずれ実際の退職につながるリスクもあります。組織への帰属意識が薄まった状態が続けば、より良い条件の転職先が見つかった際に離職する可能性は高まるでしょう。加えて、静かな退職者のしわ寄せを受けた意欲ある社員が疲弊し、優秀な人材から先に流出していくという悪循環も起こりえます。

ここからは、静かな退職を防ぐために企業が取り組むべき具体的な対策を7つ紹介します。重要なのは、静かな退職を「個人の怠慢」と捉えるのではなく、「組織環境が生み出した結果」として向き合うことです。
1on1ミーティングは多くの企業で導入されていますが、業務報告や進捗確認の場にとどまっているケースが少なくありません。静かな退職を防ぐためには、1on1を「対話の場」へと進化させることが欠かせないでしょう。
具体的には、キャリアの展望や仕事上の悩み、やりがいを感じていることなど、従業員の内面に踏み込むテーマを扱うのが効果的です。上司が一方的に話すのではなく、部下の話に耳を傾け、共感を示す姿勢を大切にしてください。
「何を達成すれば、どう評価されるのか」が曖昧な状態は、従業員の意欲を確実に奪います。評価基準を明文化し、全従業員がアクセスできる状態にすることが第一歩です。
また、評価結果のフィードバック頻度も重要なポイントとなります。年に1〜2回の評価面談だけでは、従業員は日々の努力が認められているか実感できません。四半期ごとの振り返りや、リアルタイムでのフィードバックの仕組みを整えるとよいでしょう。
静かな退職は目に見えにくいため、定期的なサーベイによる可視化が効果を発揮します。年に1回の大規模調査だけでなく、月次や隔週のパルスサーベイを組み合わせることで、従業員の意識変化をリアルタイムに捉えられます。
重要なのは、サーベイの実施自体が目的化しないようにすることです。結果を分析し、具体的なアクションにつなげるPDCAサイクルを回さなければ、従業員は「どうせ何も変わらない」と感じてしまい、逆効果となる恐れがあります。
静かな退職の根本原因のひとつは、「自分の貢献が認められていない」という感覚です。この課題を解決する有効なアプローチが、称賛・感謝の文化を組織に根づかせることにほかなりません。
口頭での称賛ももちろん大切ですが、個人の努力や意識に頼るだけでは全社的な文化として定着させるのは困難です。仕組みとしてコミュニケーションの活性化を支えるツールの導入が、持続的な効果をもたらします。詳細は次章で解説します。
過剰な業務負担は、燃え尽き症候群を経て静かな退職に至る典型的なパターンです。チームごとの業務量を定期的に棚卸しし、特定の人に負荷が集中していないかを確認しましょう。
また、「ジョブ・クラフティング」の手法を取り入れ、従業員が自分の役割に意味や面白さを見出せるよう支援する方法も有効です。業務内容を本人の強みや関心に合わせて微調整するだけでも、仕事への向き合い方は変わります。
「この会社にいても成長できない」という感覚は、静かな退職を加速させる大きな要因となります。社内公募制度や部門横断プロジェクトへの参加機会、資格取得支援制度など、従業員が自らのキャリアを主体的に切り拓けるような仕組みづくりが求められるでしょう。
年代に応じたアプローチも効果的です。20代には挑戦機会の提供とメンターの配置、30代には専門性向上の支援とワークライフバランスへの配慮、40代にはリーダーシップ開発やキャリアの再設計支援など、年代に合わせた施策を実施しましょう。
常に100%で稼働し続ける働き方は持続可能ではありません。従業員が自律的に時間を管理できる裁量を与え、業務に「余白」を設けることが、創造性やモチベーションの維持につながります。
フレックスタイム制度の柔軟な運用や、副業・兼業の容認も選択肢のひとつです。社外での経験が本業に新たな視点をもたらし、仕事への意欲を回復させるケースは珍しくありません。

前章で触れた「称賛・感謝の文化を仕組みで定着させる」施策を具体化するうえで、注目したいのがチームワークアプリ「RECOG」です。
RECOGは、メンバー同士が感謝や称賛を「レター」として贈り合うことで、日常的なコミュニケーションを活性化させるサービスです。地方自治体や学校法人、民間企業まで、業界・業種を問わず累計1,500社以上に導入されています。
1.貢献の「見える化」で評価への納得感が高まる
静かな退職の原因として多いのが、「頑張っても認められない」という感覚です。RECOGでは、同僚から届いたレターが社内で共有されるため、数字には表れにくい日々の貢献や気配りが組織全体に可視化されます。蓄積されたレターのデータは1on1やミーティングでのフィードバック材料としても活用でき、評価の透明性向上に寄与するでしょう。
2.心理的安全性が向上し、自発的な行動が生まれる
感謝や称賛が日常的に飛び交う職場では、「自分はこのチームに受け入れられている」という安心感が醸成されます。心理的安全性が高まれば、静かな退職の兆候である「発言の減少」や「提案の回避」を防ぎ、従業員が主体的に行動できる土壌が育まれるのです。
3.AIによる組織分析で兆候を早期発見できる
RECOGには独自のAIがレターや投稿などの組織データを分析し、チームの状態を可視化する機能が備わっています。新たなリーダーの発見やコミュニケーションが停滞している部署の特定に加え、離職リスクの高い従業員を早期に検知することが可能です。静かな退職が深刻化する前に手を打てる点は、大きなメリットといえるでしょう。
さらに、レターを贈るとポイントが蓄積され、約5,500種類の商品と交換できるピアボーナス機能も搭載されています。金銭的なインセンティブと心理的な承認を同時に満たす仕組みが、従業員のエンゲージメント向上を後押しします。
詳細はこちらの資料で紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
静かな退職は、従業員個人の意欲の問題ではなく、評価制度・コミュニケーション・キャリア支援といった組織全体の課題が複合的に絡み合って生じる現象です。
本記事で紹介した7つの対策のうち、まずは自社で取り組みやすい施策から着手し、小さな成功体験を積み重ねていくことが重要です。
とりわけ、称賛・感謝の文化を仕組みとして定着させることは、評価への納得感、心理的安全性、コミュニケーションの活性化といった複数の課題を同時に解決するアプローチとして、高い効果が期待できます。RECOGのようなツールを活用し、従業員一人ひとりの貢献が「見える」組織づくりを進めてみてはいかがでしょうか。
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