エンパワーメントとは迅速な意思決定を下せるよう、現場へ権限を移譲することです。現場の判断で業務を進められる範囲が広がるため、業務効率が高まります。また、従業員一人ひとりが責任感をもち、業務に主体的に取り組む姿勢も期待できるでしょう。
本記事では、エンパワーメントの導入メリットや進め方、具体例などを紹介します。生産性向上や人材育成に取り組んでいる方は、最後までご一読ください。

エンパワーメントとは「力や権限を与える」との意味をもつ言葉です。業界ごとに考え方は異なるものの、ビジネスでは現場への権限移譲を行なう意味合いで使用されています。
自社を取り巻く経営環境や社会情勢は急激なスピードで変化しています。臨機応変な対応や迅速な意思決定を下すためにも、エンパワーメントの導入・推進が必要です。

エンパワーメントは、業界ごとに意味合いが少しずつ異なります。ここでは一般的な使われ方を含め、4つの分野での事例を紹介します。
ビジネスでは、従業員への権限移譲や能力開花の意味合いで使用される言葉です。本記事で紹介するエンパワーメントも、ビジネス分野での内容です。
企業規模にもよるものの、経営層や一部の管理職に権限が集中する体制が正しいとは限りません。仮に経営層や管理職が現場の実情を正確に把握していない場合、誤った判断を下すおそれが高まります。
エンパワーメントを推進し、現場が状況に応じて判断できる体制が整うと、意思決定のスピードと精度が向上します。
福祉分野では、利用者一人ひとりの力を引き出すことを重視した福祉政策や社会的支援の選択肢と考えられています。利用者の自己効力感や問題解決能力を高め、積極的な社会参加を促すのが目的です。
施設関係者は必要な情報の提供やコーチングなどを行ない、最終的には利用者が自らの意志で行動・判断できる状態を目指します。
看護・介護分野では、患者や利用者が自力で日常生活を送れるよう、健康上の問題解決を支援する意味合いとなります。治療方針の決定や健康維持への取り組みは、患者や利用者に最終的な決定権があり、一人ひとりの考えや意思を尊重するスタンスです。
医師や看護師、介護士などは、患者や利用者のもつ能力を最大限引き出し、一人ひとりが最終的な目標を達成できるようサポートします。
具体的には食事メニューの選択や同じ趣味をもつ利用者同士の交流、家事の役割分担などを促し、患者や利用者の積極性や自主性を引き出します。
また、エンパワーメントの対象は患者の家族や地域社会など、さまざまです。場合によっては目標達成に向けたプロセスではなく、結果を重視する考え方もあり、幅広い場面で利用されているといえるでしょう。
教育では子どもが生涯にわたって主体的に学習を続けられるよう、子どもの自主性や対話を重視した指導を意味します。文部科学省では、子どもが「主体的・対話的」で深い学びを実現できるよう、教育関係者に対して授業の視点や考え方、内容の改善を求めています。
たとえば、理科の授業で食塩や砂糖など、物体の溶け方を実験するとしましょう。子どもが主体的・対話的に学べるようにするには、以下の取り組みが必要です。
実験前に授業で実験結果がどうなるかを予想してもらう
計量や蒸発させるといった複数の方法を実施する
グループごとに実験結果を発表する
違うグループの結果に対して、意見交換を行なう
実験結果に対する意見を書いてもらう
子どもが新たな考えや知識に触れる機会を設け、学習を「おもしろい」と感じてもらうことが重要です。学習への興味が高まれば、自分が知識を深めたい分野を探すきっかけとなり、進路や就職の際にも役立つでしょう。
また、子どもの主体性が高まると、目標達成にはどのような情報やモノが必要かを考える習慣が自然と身に付き、論理的思考力や課題解決力などが高まります。

ここでは、エンパワーメントへの注目度が高まっている3つの理由を紹介します。
VUCA時代とは社会変化が激しく、将来の予測が困難で先行きが曖昧かつ複雑な時代のことです。VUCAは以下4つの単語から構成されている造語となります。
Volatility(変動性)
Uncertainty(不確実性)
Complexity(複雑性)
Ambiguity(曖昧性)
新型コロナウイルスの流行やAIの普及、紛争など、現代の社会は急激なスピードで変化しており、次に何が起こるのかを予測するのは困難です。また、複数の要因が複雑に絡み合っており、結果との因果関係を示すのも難しくなりました。
過去の経験やデータに照らし合わせても、ビジネスの成功・失敗要因を特定するのが難しくなりつつあります。従来のように経営層や一部の管理職だけに権限を集めるトップダウン方式では判断が追い付かず、顧客や市場ニーズの変化に素早く対応できません。
顧客ニーズの変化を素早く察知するには、エンパワーメントを推進して現場で意思決定を下せる体制を整えておくことが必要です。
少子高齢化や価値観の多様化、人材のミスマッチなどが原因で、労働人口の減少は今後も続くと予想されています。人材不足を防ぐにはエンパワーメントを推進し、若手従業員のスキルアップや人材育成のスピードを加速することが重要です。
早くから業務の裁量権を与えれば、若手従業員は責任の大きい仕事に挑戦できるようになり、自主的な行動や学習に取り組むようになります。成功体験を重ねるほど自身の能力や仕事ぶりに自信が付き、新しい仕事・役割への積極的な挑戦が期待できるでしょう。
また、エンパワーメントの推進で自身の経験や能力を発揮できる機会が多いと、中途採用者の即戦力化によって生産性や組織力が高まります。
自社の将来を担うリーダーの育成も、エンパワーメントを推進する目的の1つです。価値観や働き方の多様化などによって、人材の流動化が高まっています。自社への帰属意識が高くない限り、従業員がよりよい労働条件や職場環境を求めて、離職を決断しても不思議ではない状況です。
また、労働人口の減少にともない、優秀な人材を短期間で採用するのは困難な状況です。優秀な人材が多数流出すると、組織力が大幅に低下します。企業の持続的成長には、幹部候補となる人材の計画的な育成が必要です。日々自身の業務をこなすだけでは、企業経営への関心や当事者意識は高まりません。
エンパワーメントの推進で若手の従業員に業務の権限を与えることで、判断力や思考力、リーダーシップなどを養います。早い段階から失敗も含めてさまざまな経験を積んでおくと、視野が広がり対応力も高まるでしょう。

エンパワーメントを導入するメリットには、以下5つの内容があげられます。
エンパワーメントの導入・推進で、素早い意思決定を下せる体制が整います。現場で働く従業員が状況に応じて判断を下して業務を進められるため、毎回上司に判断を仰ぐ必要がありません。意思決定までに必要な時間が大幅に減り、生産性が高まります。
また、市場動向や顧客ニーズに変化が生じた際も素早く対応できるようになり、新規顧客獲得や市場シェア率向上などにつなげられます。
エンパワーメントの推進で、自分たちで判断して業務を進められる範囲が広がると、従業員のモチベーションが高まります。自分たちがこれまで培ってきた経験や能力を活かせる場面が増え、仕事で充実感ややりがいを感じる場面も多くなるためです。
また、仕事で自身の能力を発揮できる機会が増えると自信が身に付き、「会社からの期待に応えたい」との思いも強くなります。勤務先へのエンゲージメントが高まれば離職率も低下し、組織力向上や採用力の強化など、さまざまメリットをもたらします。
エンパワーメントの導入は、人材育成と従業員の能力向上を促す効果も期待できます。
権限を与えられた従業員は、業務の進捗状況や従業員の業務量、設備の稼働状況など、さまざまな点を考慮して判断を下さなければなりません。周囲の状況を判断してどのような決断を下すべきか、常に考える習慣が身に付き、論理的思考力や判断力が養われます。ほかの従業員とやりとりを交わす機会も増え、コミュニケーション能力やマネジメントスキルなども磨かれるでしょう。
また、エンパワーメントの導入で、これまで見逃していた従業員の潜在能力を発掘できる可能性もあります。現場で働く従業員が中心になって、業務プロセスの見直しや新商品のアイデア出し、キャンペーン企画の立案など、さまざまな業務を進められるためです。
「○○さんはリーダーシップがある」「○○さんは独創的なアイデアを出す」など、ほかの従業員の長所を見つけやすくなります。従業員の長所を活かした人材配置によって、従業員一人ひとりが能力を最大限発揮でき、組織力が高まります。
エンパワーメントの推進で、現場で臨機応変な判断・対応が取れるようになると、顧客満足度が高まります。迅速かつ丁寧な顧客対応によって、「安心して仕事を依頼できる」との印象を与えられるためです。
たとえば、顧客から急ぎで見積書の提出を依頼されたとしましょう。「総額50万円以下までは課長の許可のみ必要」「金額次第で係長の押印でも提出可能」など、現場への権限譲渡を進めておくと、素早い対応が可能です。
エンパワーメントの導入で、急ぎの対応やトラブルが生じても素早く対応できる体制が整うと、担当者や自社への信頼が高まり、継続的な取引が期待できます。
エンパワーメントによって現場への権限移譲を進めると、従業員一人ひとりの当事者意識が増し、前向きな姿勢で業務に取り組むようになります。従業員同士が話し合いながら業務を進める体制が整えば、管理職に毎回指示を仰ぐ必要もありません。
管理職は細かい判断業務から解放され、営業戦略の策定や経営戦略の見直しなど、戦略的業務へ集中して取り組めるようになります。

エンパワーメントは以下の手順に沿って、導入を進めていきます。
エンパワーメントのメリットや解決したい課題、目標など、経営層が導入目的を組織全体に発信することからはじめます。導入目的が十分に共有されないまま、エンパワーメントを推進しても、従業員に不安や不信感を与える可能性が高まります。
また、エンパワーメントの推進には継続的な取り組みが求められるため、導入目的を共有して従業員からの理解を得ましょう。
通常業務と並行してエンパワーメントを推進していくには、従業員からの共感や合意が欠かせません。従業員がエンパワーメントの内容やメリットなどに関して、理解を深められるよう、早期にディスカッションや勉強会を開催しましょう。
ディスカッションや勉強会では、経営層や担当者が従業員からの質問に対して一つひとつ丁寧に回答する姿勢が求められます。従業員の不安や疑問を解消しきれない限り、合意は得られず、仮に導入を進めても想定していた効果は得られないでしょう。
「誰に・どのような内容を・どの程度まで」任せるかを明確にしたうえで、段階的に権限を移譲します。管理職がこれまで判断していた部分をすべて任せると、対象の従業員に多大な負担がかかるだけでなく、通常業務に支障が及ぶリスクが高まります。
通常業務の遂行とエンパワーメント推進を両立させるため、最初は部分的に権限を移譲し、問題なければ範囲を広げていきましょう。
また、権限を与える従業員には経営戦略や経営状況、人事情報など、必要な情報を事前に開示しておくことが必要です。重要な情報の開示で従業員への信頼や期待の高さを示し、貢献意欲や当事者意識を高めます。
ただし、機密情報の漏えいを防ぐため、複数人に権限を与える際は「勤続10年以上」「主任以上」など、情報を開示する従業員の条件を決めておきます。
意思決定の迅速化や従業員の能力開花などの実現には、効果測定と改善を継続して繰り返すことが必要です。エンパワーメントを導入しても、すぐに効果が出るとは限りません。権限移譲によって、事前に想定していなかった課題が出るケースも考えられます。
仮に思うような効果が得られない場合、原因の特定と改善策の実施に素早く対応しなければなりません。また、権限を移譲した従業員から相談を受けた際は上司がフォローし、必要に応じて権限移譲の範囲を狭めることも検討しましょう。

以下2つの方法を使い分け、エンパワーメントを推進します。
構造的アプローチとは、経営層や管理職から現場で働く従業員に対し、権限を移譲する方法です。「現場の声を反映した意思決定を下す」「従業員とともに目標を設定する」などを行ない、従業員が職場の課題解決に積極的な姿勢で取り組むように促します。
また、構造的アプローチには、業務に必要な情報を入手しやすい仕組みを整備することも含まれます。情報共有しやすい体制を整え、コミュニケーションの活性化や従業員間の連携強化につなげるのが目的です。
心理的アプローチとは従業員の内面に働きかけ、自己効力感を高める手法です。「成果を給与や賞与に反映する」「仕事への取り組みを定期的に評価する」などが、心理的アプローチの具体的な取り組みの一例です。
心理的アプローチは従業員のメンタルヘルスを保ちながら、スキルアップや成長を促せる点が特徴です。仕事を通じて自己効力感が高まると、自身の能力や仕事ぶりに自信がもてるようになり、難易度の高い仕事にも積極的な姿勢で取り組むようになります。
成功体験を重ねられれば精神的にも余裕が生まれ、多少失敗してもすぐに切り替えられるでしょう。
また、失敗しても引き続き仕事を任せることで、ほかの従業員にもポジティブな影響を与えられます。多くの従業員が「真摯に取り組めば失敗しても責められない」と安心感を覚え、能力を発揮しやすくなります。

以下3つの注意点と成功へのポイントを把握し、エンパワーメントを推進しましょう。
現場で下した判断にミスが起きた際、上司が素早くフォローする体制を整えておくことが重要です。
権限を付与された従業員が、最初から常に正しい判断を下せるとは限りません。経験や能力不足が原因で、判断ミスを引き起こすケースも考えられます。
ただし、判断ミスを責めると従業員が委縮し、次回以降自信をもって判断を下せません。周囲の従業員もミスをおそれて、積極的な行動や新たな挑戦を控えるようになるでしょう。
エンパワーメントを推進するには、現場の従業員が積極的に挑戦しやすい環境を整えることが重要です。トラブル内容に応じた対処法をマニュアルへ事前にまとめ、必要に応じて従業員と面談を行なうなど、手厚いフォロー体制を整えておきましょう。
従業員の能力や適性、業務内容などを見極めたうえで、権限移譲の範囲を決めることが重要です。
ほかの従業員への指示出しや責任がともなう意思決定など、大きな権限をもつことに不安や恐怖を覚えても不思議ではありません。能力以上に大きな権限を委譲すると、必要以上に責任感やプレッシャーを感じ、最悪の場合はメンタルヘルスの不調を招きます。事前に1on1ミーティングを実施し、新たな役割へ挑戦する意向や経験の有無などを確認し、権限移譲の範囲を決めましょう。
また、面談の際に「失敗してもカバーする」「フォロー体制を整えておく」といった言葉をかけることで、従業員の不安を軽減できます。
エンパワーメントの推進で、従業員一人ひとりが判断するケースが増えると、部署に応じて顧客対応や業務品質にばらつきが生じます。自社の方針を理解している部署とこれまで通りに対応する部署では、従業員が業務に向き合う姿勢が異なるためです。
場合によっては部署同士が衝突し、職場の雰囲気や人間関係が悪化するおそれも生じます。また、部署ごとに業務品質のばらつきが大きいと、顧客や取引先に不信感を与え、最悪の場合は今後の取引に悪影響を及ぼすでしょう。
組織として一貫した対応を実現するには、企業理念や行動指針を浸透させることが重要です。企業理念の浸透で組織としての一体感や従業員同士の結束が高まり、全員が同じ方向を向いて業務に取り組めるようになります。
エンパワーメントを推進し、現場への権限移譲を進めても、従業員が安心して挑戦できる環境がなければ定着は困難です。判断ミスを過度におそれたり、周囲の目を気にして消極的な姿勢に戻ったりするケースも少なくありません。
エンパワーメントを組織に根付かせるには、従業員の挑戦や貢献を日常的に称賛・承認する文化の醸成が欠かせません。上司からの評価だけでなく、同僚同士が互いの頑張りを認め合える環境が整うと、心理的安全性が高まり、「失敗しても大丈夫」という安心感のなかで主体的な行動が促進されます。しかし、称賛・承認の文化を個人の意識だけに頼って維持するのは難しく、仕組みとして定着させることが重要です。

RECOGは、従業員同士がリアルタイムで感謝や称賛を送り合えるレコグニション(称賛・承認)ツールです。日々の業務のなかで「ありがとう」「助かりました」といった声を気軽に届けられるため、称賛・承認が特別なイベントではなく日常の習慣として組織に根付きます。エンパワーメントによって権限を委譲された従業員が自信をもって判断・行動し続けるには、周囲からの承認が大きな支えとなります。権限移譲と称賛の仕組みを両輪で整え、従業員が能力を最大限発揮できる組織づくりを目指しましょう。
RECOGの詳細はこちらの資料で紹介しているのでぜひご覧ください。
ビジネスの場でエンパワーメントは、現場への権限移譲を行なうことを意味します。現場で判断できる範囲が広がれば、意思決定を下す際に管理職や経営層に確認する必要がありません。スピーディーに業務を進められるため、生産性が高まります。
また、従業員一人ひとりが能力を発揮しやすくなり、スキルアップや成長を促せます。ただし、エンパワーメントを推進する際は、従業員の能力や適性、業務内容に見合った権限を与えなければなりません。
能力以上の権限を与えると必要以上にプレッシャーを感じ、1つのミスから自信を失うおそれがあります。本記事を参考にエンパワーメントを導入・推進し、迅速な意思決定を下せる体制を整備してみてはいかがでしょうか。
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