組織のパフォーマンスを向上させるうえで重要な要素となる、心理的安全性。「従業員が積極的に発言できるチームにしたい」「心理的安全性を高めて、従業員が最大限能力を発揮できる環境にしたい」そんなとき、どのように心理的安全性を高めればよいのでしょうか。
本記事では、組織の心理的安全性の度合いを測る「7つの質問」と3つのサイン、そして心理的安全性の高い職場の作り方を10個のポイントから解説します。
心理的安全性とは「誰もが臆せず自分の意見を述べられる組織の状態」のことです。ハーバード大学の組織行動学の研究者、エイミー・エドモンドソン氏が最初に提唱した概念で、その後Googleの研究によって広く注目されるようになりました。
心理的安全性とは何か?詳しく知りたい方は、こちらの記事もチェックしてみてください。
心理的安全性の高い組織は、その心地よさから「ぬるま湯組織」と混同される場合がありますが、それは大きな勘違いです。
ぬるま湯組織とは、変化を好まず成長意欲を持たない組織のことです。「よりよい形にしよう」という意欲がなく、「相手に嫌われてまで間違いを指摘したくない」という消極的な気持ちから、何か発言しても意見や反論が返ってこない傾向にある組織を指します。
一方、心理的安全性の高い組織では、意見が対立するリスクがあったとしても「伝えるべきことは伝える」姿勢を大切にしています。指摘を受けたとしても、心理的安全性が高いと「成長のための指摘だ」と捉えられるため、人間関係に大きな影響を及ぼす心配もあまりありません。
心理的安全性が低いと、組織にどのような影響を及ぼすのでしょうか。エドモンドソン氏は、心理的安全性が低い組織で見られる不安を4つ定義しています。
心理的安全性が低い場合に生じる不安のひとつは「無知だと思われる不安」です。「こんなことも知らないのか」と思われる心配を指し、心理的安全性が低い組織では上司や先輩従業員に対して抱くケースが多い傾向です。
心理的安全性が欠如すると、業務に関する質問や相談をしたくても「こんな簡単なこともわからないのか」と呆れられるのではと不安になり、声掛けを躊躇ってしまいます。疑問が解消されないため仕事の生産性は低下し、従業員の成長機会を逃してしまうでしょう。
また知識不足や理解不足を隠すことでまわりは適切なフォローができず、後々大きなトラブルに発展する恐れもあります。
心理的安全性の欠如による「無能だと思われる不安」とは、周囲から「仕事ができない人だ」と思われる心配のことです。心理的安全性の低い組織では、無能のレッテルを貼られることを不安に思うあまり、発言を躊躇し失敗を隠そうとします。
例えば、会議で発言を求められても「的外れな発言で恥をかくのでは」と不安にさいなまれ、思うように発言できず沈黙してしまう傾向にあります。
しかし、本人にとっては自信のない発言であっても、実は固定観念を覆す斬新なアイディアかもしれません。心理的安全性が低さから発言を躊躇する環境を作ってしまうのは、組織成長の観点から見ても大きなデメリットです。
心理的安全性が低いと「自分が発言したら、他の人の時間を奪ってしまうのでは」「自分の発言がチームの足を引っ張るのでは」という不安に駆られます。これが心理的安全性の欠如によって生じる「邪魔だと思われる不安」です。
チームで「AとBどちらの方法を選択すべきか」話し合っている際、大多数がAを支持しているなかで、Aの懸念点が浮かんだとしましょう。心理的安全性が高い組織では迷いなくAの懸念点を挙げられますが、心理的安全性が低いと「空気が読めないと思われるのでは」と発言を控えてしまい、多角的な視点から検討する機会を逃してしまいます。
心理的安全性の欠如から生まれる「ネガティブな不安」とは、いつも「他人の意見を否定する人だ」と思われる心配のことです。チームのための指摘だったとしても、心理的安全性が低いと「発言者を否定していると思われるのでは」「ネガティブな人だと嫌われるのでは」と不安になり、発言に消極的になります。また、指摘だけでなく改善策を一緒に提案しようと思っても、よい案が浮かばなければ発言できません。
心理的安全性の低さから「ネガティブだと思われる不安」を抱く人が多い組織ほど、結果としてイエスマンが増えてしまい、建設的な議論ができなくなります。
心理的安全性は従業員の心理状態であるため、その度合いを目で見て確認することができません。では、どのように心理的安全性を測ればよいのでしょうか。
エドモンドソン氏は、以下の7つの質問の回答結果を見れば、心理的安全性の度合いがわかるとしています。
ミスをするとチームのメンバーから、非難されることが多い
チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える
チームのメンバーは、自分と異なるために他者を拒絶することがある
チームのメンバーに対して、リスクのある行動をとっても安全である
チームのメンバーに助けを求めるのは難しい
チームのメンバーは、誰も自分の仕事を意図的におとしめるようなことはしない
チームのメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと能力が尊重され、活かされていると感じる
1、3、5のネガティブな質問に対して「そう思う」と回答する人が多いほど、心理的安全性は低い状態であり、2、4、6のポジティブな質問に対して「そう思う」と回答する人が多いほど、心理的安全性は高いと判断できます。
※出典 Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams
心理的安全性が高い組織では、以下3つのサインが見られるのも特徴です。
心理的安全性を高めるには、楽しい雰囲気を作ればよいというわけではなく、組織として健全な状態であることが大切です。
ここからは、心理的安全性の高い職場・チームの作り方をご紹介します。前述の「7つの質問」で心理的安全性が低かった場合や、心理的安全性が高い3つのサインが見られない場合には、これからご紹介する方法をぜひ参考にしてみてください。
心理的安全性の高いチームを作るには、お互いをありのままに受け入れる姿勢が大切です。しかし、自分のことを受容できない人が他人を受け入れるのは難しいでしょう。心理的安全性を高める第一歩として、まずはリーダーが自分自身を受け入れてみてください。
苦手なことやできないことがあったとしても、それを隠して一人で何とかしようとするのではなく、苦手である事実を受け入れ、メンバーを頼りましょう。また何か失敗やミスがあったときにも目を背けるのではなく、その失敗を認め、カバーする方法を考えましょう。
自分を受容し、相手を尊重して受け入れる姿勢が、チームの心理的安全性の向上につながります。
日常的に使う言葉はチームの雰囲気を大きく左右します。心理的安全性を高めるため、リーダーが率先してポジティブな言葉を選ぶよう意識しましょう。リーダーが率先することで、メンバーも自然とポジティブな言葉を使用するようになり、組織文化を変えられます。
例えばトラブルが発生した場合にも「これまでの時間がムダになった」などと不満を垂れるのではなく、「よりよい形にブラッシュアップするチャンスだ」と前向きな発言をすることが重要です。
ポジティブな発言が習慣化されれば、何か意見を言うときも否定ではなく、提案できるようになります。そうすると、心理的安全性が低い場合に生じる「ネガティブだと思われる不安」も軽減するでしょう。
心理的安全性の高いチーム作りでは、メンバーの発言機会を均等にするのもポイントです。一見全員で話し合いをしている会議でも、実は一部の人しか発言していないケースは少なくありません。発言機会を均等にすると、一人ひとりの意見を尊重する姿勢を示せ、さらに発言することを当たり前にできるため、心理的安全性が高まります。
発言をしている人に偏りが出てきたら「○○さんはどう思う?」などと声かけをすると発言しやすくなります。
全員から意見を募る際は、どのような意見であっても、まずは否定せず受け入れるよう注意しましょう。せっかく発言しても頭ごなしに否定されては、心理的安全性が下がってしまうからです。懸念点や検討すべき点があれば、意見を尊重したうえで指摘すると心理的安全性が高まります。
部下や同僚が質問・相談してきたとき「こんなこともわからないのか」と発言したり、口に出さずともそういった態度を取ったりすると、「無知だと思われる不安」が大きくなり心理的安全性は高まりません。委縮してしまい、困りごとがあっても次からは相談してこなくなるでしょう。
心理的安全性を高めるため、質問や相談を受けたときは頼ってきたことを歓迎し、なるべく丁寧な対応を心がけましょう。忙しいタイミングでは無理に対応せず「○時からでもいいですか?」など、前向きな意思表示をするのがポイントです。
心理的安全性の向上により、困ったときは周囲を頼る習慣が根付けば、従業員同士が助け合う文化が醸成でき、組織の生産性向上や人材育成にもつながります。
コミュニケーションを増やすことも、心理的安全性の高い職場作りには効果的です。
業務に関わる報連相はもちろん、1on1ミーティングで上司と部下がじっくりと話をするのも、相互理解が深まり心理的安全性が高まります。
また会議中の雑談も有効で、会議の始めにアイスブレイクをしたり、持ち回りで「3good things(今週あったよいこと3つ)」を発表したりすると、場が和むだけでなくメンバーの人柄も伝わるでしょう。
さらに、心理的安全性を高めるうえで、ランチ会など業務外でコミュニケーションの場を設けるのもおすすめです。業務中よりもリラックスした状態で話が弾み、お互いを深く知るきっかけになります。
従業員がお互いの個性を認め多様性を受け入れることも、心理的安全性の向上につながります。個性を受け入れられると安心して発言でき、自分らしい行動が取れるからです。
そのために大切なのは、従業員それぞれが異なる価値観を持っていると改めて認識すること。そして、自分と異なる考えや意見に触れたとき、拒絶するのではなく、まずは受け止めることです。
「若年層とは価値観が合わない」「アルバイトの意見は聞かない」といった姿勢は、組織ではマイナスにしかなりません。価値観や雇用形態などにとらわれず、多様な意見を受け入れられると、組織に新たなアイディアや挑戦が生まれます。
また多様性を受容できる組織では、心理的安全性の欠如による「邪魔だと思われる不安」が軽減される点もメリットです。
心理的安全性を高めるには、積極的に発言・提案する姿勢が評価される環境であることも大事なポイントです。個人の成果に偏った評価基準だと、チームに貢献するような発言をしてもムダだと思われてしまい、チームで助け合う風土を醸成しにくくなります。
また、評価基準が曖昧な場合「こんな発言をしたら評価が下がってしまうかもしれない」と心配になり、心理的安全性の欠如によって生じる「無能だと思われる不安」も大きくなるでしょう。
心理的安全性を高めるためには「積極的な発言・提案を評価する基準を設ける」「評価者や評価基準を明確にする」、そして「それらを定期的に見直す」ことが重要です。
入社したばかりの新人は、業務内容や職場の雰囲気に不慣れであるため、心理的安全性が高いとはいえず、自分の意見を言いにくい傾向にあります。また業務で悩みが発生しても、忙しそうな上司や先輩従業員に遠慮して、質問や相談ができない場合もあるでしょう。
そのため、サポート体制を充実させることで新人の不安や困りごとを解消し、心理的安全性を高める必要があります。
具体的には、メンター制度やOJT制度を通して、新人が先輩従業員に相談しやすい環境を整えるとよいでしょう。また上司が1on1ミーティングでじっくりと話を聞くと、今抱えている不安を率直に話せて、心理的安全性が高まる場合もあります。
心理的安全性の向上にあたって「ありのままの意見を言ってよい」といわれても、目指す方向や軸がなければ意見は生まれません。そこで有効なのが「OKR」です。
OKRは「Object and Key Result」の頭文字を取った言葉で、目標管理のフレームワークです。組織の重要な目標(Object)を設定し、その目標達成のための主要な成果(Key Result)を具体的に定義して個人の目標に落とし込みます。組織と個人の目標がリンクすることで、従業員が一丸となって企業活動に取り組めるメリットがあります。
また組織全体で共通目標が持てるため、従業員同士のコミュニケーションも円滑になり、風通しもよくなって心理的安全性がさらに高まるでしょう。
組織の心理的安全性を高めるには、従業員がお互いへの感謝の気持ちを忘れず「ありがとう」を伝えること、相手の努力や成果を見つけようとする気持ちが大切です。そのため、心理的安全性を高める方法として、サンクスカード制度の導入もおすすめです。
サンクスカード制度とは、紙やWebのカードに感謝のメッセージを書いて、従業員同士が贈り合う仕組みです。
「ありがとう」を伝え、相手のよい面に目を向けることが当たり前になると「受け入れられている」と感じて心理的安全性が高まります。従業員の信頼関係の構築につながるとともに、ポジティブな組織文化も醸成できます。
心理的安全性の高い職場を作るには、従業員同士のコミュニケーションを促進させて相互理解を深めることが必要です。
チームワークアプリ「RECOG」は、従業員同士の感謝・称賛をつうじて社内コミュニケーションを活発にし、信頼関係を構築できるツールです。パソコンだけでなくスマホアプリも提供しているため、パソコンを貸与していない従業員や、外出が多い従業員でも、手軽に社内コミュニケーションができます。
サンクスカード機能、投稿フィード機能、トーク(チャット)機能などさまざまなコミュニケーション方法で従業員同士のつながりを作り出せます。
詳しい機能はこちらの資料にまとめているので、ぜひダウンロードしてみてください。
心理的安全性の高い職場とは「立場に関係なく、自分の意見を率直に伝えられる健全な組織」です。それはつまり、従業員全員が主体的に企業活動に関われている状態でもあります。
心理的安全性を高めることは馴れ合いとは異なるため、互いの意見を尊重しながらも、伝えるべき指摘は伝え、組織をよい方向に変えていきましょう。
心理的安全性が高まり発言や提案が活発になると、組織に新しい風が吹き、これまで以上に優れたアイディアや挑戦が生まれて成長につながります。
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