人材の流動性が高まる現代において、従業員の離職防止は企業経営における重要課題の一つです。特に優秀な人材の離職は、コスト増加やノウハウ喪失など甚大なダメージにつながるでしょう。

 

近年、この課題を解決する手段として注目されているのが、AI活用です。本記事では、AIによる離職防止が注目される背景から、具体的な活用例、そして導入を検討すべきおすすめのツールまでを詳しく解説します。

 

 

AIによる離職防止が注目されている背景

なぜ今、AIを活用した離職防止が多くの企業で注目されているのでしょうか。従来の手法の課題と、AI活用が求められる社会的背景について解説します。

 

従来の離職防止施策が限界を迎えている

従来の離職防止策は、定期的な面談や全社的なアンケートなどが主流ですが、時間と工数がかかるうえに結果が出る頃には手遅れになるケースが少なくありませんでした。また、面談では従業員が本音を話しにくいという構造的な課題もあり、真の離職原因を特定することは困難でした。

 

離職した従業員の傾向や特徴を把握できる

AIは、過去に離職した従業員に関する膨大なデータ（評価履歴、勤怠状況、スキル、サーベイ回答など）を分析し、離職に至るまでの共通のパターンや兆候を高精度で特定できます。そのため「どのような属性の社員が、どのような状況になると離職しやすいか」の客観的な把握が可能です。

 

従業員の小さな変化も見逃さない

勤怠データ（残業時間の増加、有給取得頻度の変化）や社内コミュニケーションツール上のやり取りなどの細かなデータは、人間が日常的にチェックするのは難しいでしょう。しかしAIであれば、膨大なデータをモニタリングして微細な変化を捉えられます。上司や人事が気づく前の早期段階で、従業員のストレスや不満の蓄積を検知できるようになります。

 

人手不足による人材定着が喫緊の課題となっている

少子高齢化が進み、多くの業界で人手不足が深刻化しています。採用コストが高騰するなかで、せっかく獲得した人材が定着するかどうかは企業の存続に関わるほどの課題です。

 

AIは、高精度な予測と効果的な離職防止アクションを可能にするため、企業の人材定着への影響が期待されています。

 

【具体例】AIを活用した従業員の離職防止策

AIは、離職防止のプロセスにおいてデータの収集・分析から具体的な改善策のレコメンドまで、多岐にわたる役割を果たします。実際に企業で活用できる、6つの具体的な手法を見ていきましょう。

 

離職リスクを予測する

離職予測は、効果的なAIの活用方法の一例です。

 

過去の離職者データと現在の従業員データを比較分析することで、個々の従業員の離職リスクをスコア化します。具体的には、勤続年数、職種、年齢、給与水準、評価履歴、昇進スピード、残業時間、有給取得率、社内コミュニケーション量などの複数の要因から「今後3ヶ月以内に離職する確率」などを定量的に予測します。

 

AIによって離職リスクが高いと判定された従業員に対して、人事部門や直属の上司が優先的にフォローアップできるため、離職防止に効果的です。

 

アンケートやチャットの分析で状態を把握する

アンケートの自由記述欄やチャット上でのやり取りは、数値での測定が困難なため、一人ひとりのテキストを読み込む必要がありました。しかしAIを活用すると、アンケートやチャットの内容をAIが感情分析できるため、数値での分析が難しい指標でも簡単に把握できます。

 

たとえば、アンケートの自由記述欄から従業員の本音を分析したり、チャットの内容からネガティブな感情を抽出したりするといった使い方が可能です。人間が一人ひとりのコメントを読み込む工数を大幅に削減し、リアルタイムに状態を把握できます。

 

社内の人間関係を可視化する

離職の大きな要因の一つが、職場での人間関係です。AIを活用した組織ネットワーク分析により、従業員間のコミュニケーションパターンや関係性を可視化できます。

 

メール、チャット、会議への参加データなどから、誰と誰が頻繁にコミュニケーションを取っているか、情報のハブとなっている人物は誰かなどを分析します。これにより、組織図には表れない実際の人間関係が明らかになるでしょう。

 

また、孤立している従業員や、特定のチーム内でコミュニケーションが滞っているボトルネックを発見できるため、人間関係の改善に向けたアプローチを促進できます。

 

チームごとの課題と改善策をレコメンドする

AIは、チームや部門単位でのデータ分析により、それぞれが抱える固有の課題を特定し、具体的な改善策を提案してくれます。

 

たとえば、あるチームで離職率が他部門より高い場合、そのチーム特有のデータ（例：特定の業務の偏り、チームメンバーのスキルのミスマッチ）を分析して離職率の高さと相関する要因を特定します。分析の結果「このチームは新人とベテランのコミュニケーションが少なく、新人が孤立しやすい」といった具体的な課題が明らかになれば、「メンター制度の導入」「定期的な1on1ミーティングの実施」「オンボーディングプログラムの見直し」といった改善策をAIが提案してくれるため、ネクストアクションを取りやすくなるでしょう。

 

効果的なスキルアップを支援する

「自分の成長が止まっている」と感じることは、離職の大きな原因の一つです。AIは、従業員が目指すキャリアや、現在の業務に求められるスキルに対し、不足しているスキルや知識を特定します。そして、そのギャップを埋めるための最適な研修やリスキリングコンテンツを個別に提示することで、従業員の成長意欲を維持し、エンゲージメントを高めます。

 

さらに、社内の優秀な従業員の学習パターンを分析し、「成功者はこのような順序で学習している」というインサイトの提供も可能です。効率的な学習方法を共有することで、組織全体のスキルレベルの底上げにつながるでしょう。

 

業務の量や内容を最適化する

過度な業務負荷や、スキルに見合わない業務内容は、従業員のストレスとなり、離職につながります。AIは業務データを分析し、適切な業務配分を支援します。

 

たとえば、タスク管理ツールやプロジェクト管理システムのデータから特定の人物に負荷が集中していないかをチェックし、バランスの取れた業務配分を提案します。また、従業員のスキルレベルと業務の難易度を照合し、適切なチャレンジレベルの仕事をアサインすることにも役立ちます。

 

AIを活用した離職防止ツール8選

離職防止に活用できるツールで、AIを搭載しているものは少なくありません。ここでは、AIを活用した離職防止ツールを、大きく「エンゲージメント支援」「人材分析・予測」「AIチャット・サポート」の3つに分類して紹介していきます。

 

社内コミュニケーション・エンゲージメント支援ツール

主に、組織内のコミュニケーションを活性化し、エンゲージメントを高めることに特化したツールです。

 

RECOG

従業員同士の感謝・称賛を「レター」で贈り合い、社内のつながり強化やエンゲージメント向上に貢献するチームワークアプリ「RECOG」。他にも、投稿機能やトーク機能も搭載しています。

 

AIは、RECOG上のデータを分析して組織状態を可視化したり、レターの作成をサポートしたりすることが可能です。蓄積されたデータは、個別のフォローアップや組織の改善施策などに役立てられます。