近年、AI技術を活用することで、データに基づいた精度の高い配置転換が可能になっています。本記事では、AIを配置転換に活用するメリットと具体的な活用例を紹介します。

配置転換は組織運営において重要な施策ですが、従来の手法にはいくつかの課題がありました。ここでは、多くの企業が直面している主な3つの課題について解説します。
これまでの配置転換は、人事担当者や管理職の経験と勘に大きく依存してきました。しかし、事業環境の変化が激しくなり、従業員の価値観も多様化する現代において、個人の主観的な判断だけではバイアスがかかり、最適な配置を見極めることが難しくなっています。また、その判断プロセスが不透明であるため、従業員の納得感を得にくいという問題もありました。
従業員が持つ潜在的な能力や隠れた適性は、現在の上司や人事担当者が把握している情報だけではなかなか見抜けません。その結果、本人が持つ可能性を十分に引き出せないポジションに留まり続け、貴重な才能が埋もれてしまうケースが多く発生していました。
従業員自身も、社内にどのような部署があり、どのような人材が求められているのかという社内のチャンスを十分に把握できていません。キャリアアップを目指したくても、情報がなければ行動に移せず、結果として社外に機会を求めて離職してしまうリスクも高まります。

AI技術を配置転換に取り入れることで、従来の課題を解決し、組織と従業員の双方にとって有益な人事配置が実現できます。ここでは、AI活用による5つの主要なメリットを解説します。
AIの活用により、客観的なデータに基づいた配置判断が可能になります。これは、経験や直感に頼ってきた従来の手法からの大きな転換点です。
AIは、従業員のスキルデータ、業績評価、適性検査結果、これまでの配置履歴、学習履歴など、膨大なデータを統合的に分析します。人間では処理しきれない膨大な情報から、最適な配置パターンを導き出すことができます。人事担当者や上司の主観・バイアスを排除し、データに基づいた公平性の高い配置転換の意思決定をAIがサポートします。
AIは、従業員一人ひとりの成長ステージやキャリア目標を考慮した配置提案も可能です。単に現在のスキルで適応できる部署を選ぶのではなく、「この配置によってどのような成長が期待できるか」という視点での判断が可能になります。
従業員が持つ現在のスキルだけでなく、その人が目指すキャリアパスや学習履歴も考慮するため、少し挑戦的な役割やポジションにより個人の成長を促進できるでしょう。
AIは、一見関係のないように見える過去の業務経験や保有資格、行動特性などを分析し、従業員自身も気づいていない潜在能力や適性を可視化します。そのため、現在とは異なる分野での活躍の可能性や、従来では考えられなかったようなキャリアの選択肢が見えてきます。
「あなたと似た背景の従業員が、別の職種で大きく活躍しています」という情報は、新しいキャリアへのチャレンジを後押しするでしょう。
ミスマッチがない適切な配置転換は、離職防止とエンゲージメント向上に大きく貢献します。AIは離職リスクのある従業員を早期に発見し、効果的な配置転換を提案することで人材流出を防ぎます。
たとえば、キャリアの停滞感を感じている従業員に対して、新しいチャレンジの機会を提供することで離職を防止します。「成長できない」という不満は離職の大きな理由の一つですが、適切なタイミングでの配置転換によって成長実感を持ち続けられる環境をつくれるでしょう。
配置転換の検討は、人事部門やマネージャーにとって大きな負担です。AIの活用により、この業務負荷を大幅に軽減できます。
従来は、配置転換を検討する際、各部門のニーズをヒアリングして適任者を探し、本人の意向を確認し、関係部門と調整するという一連のプロセスに多大な時間がかかっていました。しかしAIを活用すると、適任者候補を自動的にリストアップし、マッチング度を数値化してくれるため、マネジメント作業を効率化します。

AIは実際にどのような形で配置転換に活用されるのでしょうか。ここでは、企業で実践されている5つの具体的な活用例を紹介します。
AIは従業員の保有スキルと各部門・ポジションで求められるスキルをマッチングし、最適な配置を提案します。さらに、特定のポジションにスキルがマッチする従業員をリストアップしたり、逆に特定の従業員が最も活躍できる可能性のある部署を提案したりすることも可能です。
「営業部のAさんはデータ分析スキルとプレゼンテーション能力が高いため、マーケティング部のデータアナリストポジションに適性がある」といった具体的な提案により、従業員のキャリア選択肢を広げられます。
従業員一人ひとりのキャリア志向や価値観を分析し、本人の成長につながる配置転換を提案するという活用方法もあります。
キャリア面談の記録、自己申告書、社内アンケートの回答などから、「専門性を深めたい」「マネジメントに挑戦したい」といった志向性を把握します。また、どのような研修に積極的に参加しているか、どのようなプロジェクトに自主的に参加しているかなどから、顕在化していない興味や適性を読み取ります。これらの情報を基に、従業員の志向性に合致した配置を提案してくれるため、本人のモチベーションが高まる働き方を実現できるでしょう。
離職リスクが高まっている従業員に対して、より活躍しやすい環境への配置転換を提案し、離職を防ぐことも可能です。
AIは、エンゲージメントスコアの低下、パフォーマンスの悪化、コミュニケーションの減少などから、離職リスクを検知します。たとえば、競争的な営業部門で成績が伸び悩んでいる従業員が、協調性や問題解決力が高いと分析されれば、カスタマーサクセス部門やプロジェクトマネジメント部門への配置が提案されます。また、人間関係の問題が離職リスクの原因となっている場合、組織ネットワーク分析によって、より良好な関係を築けそうなチームへの配置をアドバイスしてくれます。
定期的なエンゲージメントサーベイの結果をAIが分析し、個人の「やりがい」や「強み」の源泉を特定します。その分析結果に基づき、本人のエンゲージメントが最も高まると予測される業務内容やチーム構成のポジションを提案します。
また、AIはエンゲージメントスコアとパフォーマンスの相関も分析可能です。エンゲージメントが高いときに業績も向上する従業員もいれば、一定のプレッシャーがあるときにパフォーマンスが上がる従業員もいるでしょう。このように個人の特性を踏まえたうえで、最適な環境を提案します。
配置転換を実行する前に、異動後のパフォーマンスをシミュレーションし、成功確率を予測する手法です。これにより、リスクを最小化した配置決定が可能になります。
過去の類似した配置転換のデータを参照して成功率を算出したり、異動先部門の特性や文化との相性も分析したりすることで、配置転換後のミスマッチを防げるでしょう。

AI技術を配置転換に活用する際、効果を最大化し、リスクを最小化するために押さえるべきポイントがあります。そこで、4つの重要なポイントを解説します。
AIが提示する結果は、あくまで意思決定のための「参考情報」です。AIが最適だと判断したからといって、それを一方的に決定してはいけません。必ずその提案や予測データを基に、上司や人事が本人と対話を行ない、AIがなぜそう判断したのかを説明するプロセスが不可欠です。
AIの提案は、本人のキャリアプランやライフイベント(育児・介護や病歴)といった、データ化されていない定性的な情報を考慮できていない可能性があります。対話を通じて本人の意見や希望を最大限に尊重し、最終的な合意形成を目指すことが、納得感のある配置転換につながります。
AIは過去のデータから最適解を導きますが、未来の戦略や組織文化の変革といった前例のない判断はできません。AIの分析結果を受け止めつつも、企業の将来を見据えた最終的な意思決定は人間が責任を持って行なう必要があります。
AIによる人事データ分析は、非常にセンシティブな個人情報を扱います。データの利用目的を従業員に透明性を持って開示することはもちろん、データの匿名化処理やアクセス権限の厳格な管理など、個人情報保護のルールを徹底することが重要です。

AIによる分析や提案を活用した配置転換により、個人と組織が成長する体制を構築できます。さらに従業員同士のつながりを深めて企業を成長させていくには、人と人のコミュニケーションを活性化させていくのが効果的です。
チームワークアプリ「RECOG」は、従業員同士が日常業務での感謝・称賛を贈り合い、モチベーションアップややりがい実感だけでなく、組織の称賛文化醸成にもつながります。RECOGの詳細は以下の資料で紹介しているので、ぜひダウンロードしてみてください。
従来の経験や勘に頼った配置転換は、従業員の潜在能力を見過ごし、組織の硬直化を招く一因となっていました。AIの活用により最適なマッチングを提案することで、企業は「適材適所」を実現し、生産性を向上させられます。また、従業員にとっては、自らの可能性を広げ、納得感を持ってキャリアを築く機会につながるでしょう。 ただし、配置転換という重要な意思決定をAIに任せっきりではいけません。AIを「決定者」ではなく「優秀なサポーター」として位置づけ、データと対話を融合させることが成功のポイントです。AIと人間の協働により、配置転換を「個人と組織が成長するための戦略」へと進化させましょう。
まとめ