本記事では、第三の賃上げとはどのような仕組みなのか、従来の賃上げとの違いも含めて解説します。第三の賃上げのメリットや注意点、具体的な施策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

第三の賃上げとは、従来の賃金アップとは異なり、福利厚生の充実などを通じて従業員の実質的な手取りを向上させる取り組みのことです。
第三の賃上げは企業・従業員の双方にとってメリットがあり、第一、第二の賃上げに加えて導入する企業が増えています。
第三の賃上げは、税金の非課税枠や、社会保険料の算定対象外の枠組みを利用した制度です。
企業が従業員に支給する賃金には、税金や社会保険料が発生します。従業員にはこれらが差し引かれた金額が支給されるため、企業が賃上げを行なっても、実際の手取り額はそれほど増えないケースが多くあります。
企業としては十分な賃上げを行なっているつもりでも、従業員の実感として生活が楽にならなければ、不満を溜める原因になるでしょう。
一方、一定の要件を満たして提供される福利厚生は、税金が非課税になったり、社会保険料の算定対象外になったりします。つまり、家計の助けとなるような福利厚生を提供すれば、税金や社会保険料の負担が増えることなく、従業員の生活の質を向上させられます。
これが、第三の賃上げの基本的な仕組みです。
第三の賃上げが「第三の」と呼ばれるのは、従来の2種類の賃上げに次ぐ、新しい仕組みとして位置付けられているためです。
従来の支給額アップによる賃上げは、第三の賃上げの登場により、「第一の賃上げ」「第二の賃上げ」と呼ばれるようになりました。第一・第二の賃上げと第三の賃上げの違いを簡潔にまとめると、以下のとおりです。
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第一の賃上げ |
個人の成績や勤続年数などに基づく定期的な昇給 |
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第二の賃上げ |
企業の業績などに応じた基本給の一律引き上げ(ベースアップ) |
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第三の賃上げ |
福利厚生の拡充による実質的賃上げ |
第一の賃上げは、従業員の勤続年数や年齢、成績などを考慮した昇給のことです。多くの場合は、企業が定めた給与テーブルに基づき定例的に行なわれます。
第二の賃上げは、従業員の基本給の水準を一律で引き上げることです。いわゆる「ベースアップ」と呼ばれるものです。第一の賃上げが従業員個人に紐づく昇給なのに対し、第二の賃上げは企業の給与テーブル全体が底上げされるという違いがあります。
一方、第三の賃上げでは、給与の支給額自体は変動しません。企業は、第三の賃上げとして住宅費や食費などを支援する福利厚生サービスを提供することで、従業員の実質的な手取りや満足度の向上を目指します。
第三の賃上げは、直接的な賃上げとは異なる新しい概念として、多くの注目を集めています。
第三の賃上げが注目される背景には、相次ぐ値上げによる物価高騰があります。
あらゆるモノやサービスの価格が高騰するなか、直接的な給与の引き上げは、企業にとっても負担が大きいものです。また、賃上げが物価の上昇スピードに追いつかず、労働者にとっては「家計の負担が減った」という実感を得にくい状態が続いています。
第三の賃上げでは、生活に直結する費用の直接補助が可能です。これにより実質的な生活コストを下げられるため、従業員の不安を迅速に解消できます。

ここからは、第三の賃上げを行なうメリットを、企業側・従業員側の両方の視点からまとめます。
企業が第三の賃上げを行なうメリットは、主に以下の4点です。
第三の賃上げは、企業にとっても節税効果があります。
第三の賃上げとして提供する福利厚生サービスは、一定の要件を満たすと「福利厚生費」として計上できます。福利厚生費は経費として利益から差し引けるので、これにより企業に課せられる法人税の負担を軽減可能です。
また、通常支給する賃金とは異なり、福利厚生サービスには社会保険料がかからない場合があります。社会保険料は、企業と従業員が双方の負担分を納める必要があるため、第三の賃上げは社会保険料の負担軽減にもつながります。
第三の賃上げなら、企業が同額を賃金として支給する場合と比べて、実質的なコストを軽減しながら従業員への還元を実現できるのです。
第三の賃上げによる福利厚生サービスには、少額から始められるものも少なくありません。たとえば、食費の補助サービスであれば、月々数千円程度で導入できる場合が多いでしょう。
一方、従来の賃上げ、なかでも「第二の賃上げ」は基本給を一律で引き上げる必要があるため、企業の財務状況に大きな影響を与えます。これに比べて、第三の賃上げは少ない金額でも導入しやすいため、中小企業も無理なく取り組めるのがメリットです。
また、定期昇給やベースアップとは異なり、第三の賃上げは柔軟な制度設計が可能な点も魅力です。従業員の反応を確認しながら、補助額やサービス内容を段階的に拡充してもよいでしょう。
第三の賃上げにより福利厚生が充実すれば、従業員の生活の質(QOL)が向上しやすくなります。生活コストの低下は経済的な安心感につながるため、会社への満足感や愛着心が高まり、離職率の改善効果を期待できるでしょう。
第三の賃上げのなかでも、住宅補助や育児・介護支援などのライフステージに合わせた福利厚生サービスは、従業員が長く安心して働ける環境の実現に直結します。「従業員の人生や生活を支える」というメッセージも発信できるため、人材の定着に寄与するでしょう。
人材の流出を防ぐことで、結果的に採用コストを削減できるというメリットもあります。
第三の賃上げによる福利厚生の充実は、企業のブランド力を強化します。採用活動における魅力づけにもなり、優秀な人材の獲得につながるでしょう。
また、福利厚生は「人的資本経営」の指標としても機能します。人的資本経営とは、人材を「資源」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大限引き出すことで、企業価値の向上を目指す経営手法です。近年は人的資本経営の重要性が高まり、求職者や投資家などのステークホルダーから、その取り組みが評価される傾向があります。
第三の賃上げとして魅力的な福利厚生サービスを提供すれば、対外的イメージの向上により長期的なメリットを期待できるでしょう。
第三の賃上げが従業員にもたらすメリットは、主に以下の2点です。
第三の賃上げとして、住宅費や食費などの生活にかかる費用を補助すれば、従業員の実質的な手取り額が向上します。たとえば、食事補助の提供により、従業員の食費が1万円分削減されると、実質的に手取り額が1万円分上がるのと同様の効果を期待できます。
また、第三の賃上げの多くは、税金や社会保険料の対象外です。たとえば、給与を月1万円アップした場合、実際に従業員に支給されるのはそこから税金や社会保険料を差し引いた金額です。一方、福利厚生サービスとして1万円を支給した場合、従業員の1万円分の補助をそのまま受け取れます。
このように、第三の賃上げは給与を直接的に上げるよりも、従業員の実質的な手取り額を上げる効果が高いといえるでしょう。
第三の賃上げによる福利厚生の充実は、従業員が働きやすい環境の整備につながります。
たとえば「会社にアクセスしやすい場所で暮らすための住宅費を支給する」「スポーツジムの利用料を補助する」などの取り組みは、ワークライフバランスの実現を力強くサポートします。従業員の希望に応じて在宅ワークを可能とすれば、交通費を削減しつつ多様なライフスタイルに対応可能です。
また、安くておいしい社員食堂を導入すれば、従業員同士のコミュニケーションも促進できるでしょう。
企業が労働環境を整備するための具体的アクションを起こすことは、従業員との信頼関係の構築にも寄与します。

新しい施策を成功させるためには、その施策における課題や注意点の把握が欠かせません。
第三の賃上げを導入する場合は、以下のポイントに注意が必要です。
第一・第二の賃上げとは異なり、第三の賃上げには導入・運用のコストが発生するのがデメリットです。
定期昇給やベースアップは、金額さえ決定すれば特別な処理は必要なく、毎月の給与に反映させるだけで済みます。一方、第三の賃上げを行なうためには「既存制度の拡充」または「新規制度の導入」が必要です。
たとえば、在宅ワークの導入にはペーパーレス化の推進が不可欠です。紙の書類のデータ化には多くの労力を要し、書類の提出や申請などの運用ルールも新たに設計する必要があります。また、社員食堂を導入するためには設備投資を行ない、調理スタッフも確保しなければなりません。
とくに、中小企業においては、財務への影響を慎重に検討したうえで制度を導入する必要があります。その際、導入コストだけでなく、制度の運用や見直しにかかる継続的なコストを考慮することが大切です。
第三の賃上げとして福利厚生サービスを導入する際は、関連法令や税制について理解を深める必要があります。
第三の賃上げの恩恵を受けるためには、国が定める厳しい要件を遵守しなければなりません。たとえば、食事補助については、非課税の上限額が月3,500円までと定められています。
要件を満たせない場合、その福利厚生費は「賃金」とみなされ、課税対象となってしまいます。必要に応じて税理士などの専門家と連携し、関連法令や税制を遵守した運用体制を構築しましょう。
第三の賃上げとして福利厚生サービスを行なう際は、従業員間の利用格差に注意が必要です。
一部の従業員にのみ適用される制度は、不公平感につながる可能性があります。たとえば、育児支援は、子どものいない従業員にとっては直接的な恩恵がありません。そのため、育児支援のみに力を入れると「子どものいる人ばかり優遇されている」と、不満を持たれるリスクがあります。
不公平感を醸成させないため、すべての従業員に共通して恩恵があるようなサービスを提供するとよいでしょう。また、従業員が好きな福利厚生を選べる「カフェテリアプラン」を導入するのもおすすめです。
第三の賃上げには導入・運用コストが発生するため、費用対効果の検証も重要です。
どのような効果を・どの程度得られたのかを客観的に分析し、施策の効果を判断する必要があります。
具体的には、離職率やエンゲージメントスコア、従業員満足度などが指標となります。定期的に費用対効果を測定し、人的リソースや財務リソースに合わせた無理のない制度を構築しましょう。

第三の賃上げとして実施される福利厚生には、企業ごとにさまざまなケースがあります。代表的なものは、次の7つです。
住宅手当
食事補助
通勤手当
出産・育児や介護の支援
健康支援
自己啓発の支援
ピアボーナス
それぞれの支援について、以下で詳しく解説します。
住宅手当は、従業員の住居費を補助する目的で支給される手当です。第三の賃上げの代表例であり、従業員の生活期間を安定させる効果を期待できます。
支給条件は企業が自由に設定できますが、一般的には以下のような条件に基づき支給の有無や金額を決めるケースが多いでしょう。
賃貸か持ち家か
世帯主か
扶養親族はいるか
通勤時間
勤続年数
年齢 など
ただし、家賃や住宅ローンの返済に充てるため支給される住宅手当は、原則課税対象です。
そのほか、第三の賃上げとして住居費を補助する制度としては、社宅制度や寮制度なども考えられます。これらは従業員が家賃相当額の50%を負担している場合、非課税として扱われます。
食事補助とは、従業員の日々の食費の一部を補助する制度です。従業員の生活コストを削減するとともに、健康支援にもつながります。
以下のように、食事補助にはさまざまな提供形態があります。
社員食堂
食事補助券
宅食弁当
設置型社食
たとえば、食事補助券とは、飲食店で利用可能なチケットを配布するという提供形態です。また、設置型社食とは、社内に冷蔵庫や冷凍庫を設置して飲食物を保管し、従業員が自由に購入できるようにする仕組みです。電子レンジとセットで設置すれば、いつでも温かい食事を提供できます。
ただし、食事補助を非課税とするためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
従業員が食事価額の50%以上を負担している
企業の負担額が月3,500円(税抜)以下
上記の点に注意しつつ、従業員に喜ばれる制度を設計しましょう。
通勤手当とは、従業員の通勤にかかる費用を補助する制度です。自宅から会社までの移動にかかる費用を補助するもので、外回りや取引先の訪問にかかる費用は別途「交通費」として支給されるのが一般的です。電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合はその運賃を、自家用車で通勤する場合はガソリン代を補助します。
通勤手当には、非課税限度額が設けられています。たとえば公共交通機関や有料道路を利用する場合、非課税限度額は月15万円です。なお、自動車での通勤については、通勤距離に応じて非課税限度額が異なります。
通勤手当は導入している企業が多いため、第三の賃上げとして機能させるには制度の拡充が求められるでしょう。具体的には、自転車通勤手当や徒歩通勤手当の新設などが考えられます。また、ストレスの少ないオフピーク通勤を推奨するため、フレックスタイム制を導入するのもおすすめです。
出産・育児や介護の支援は、ライフイベントと仕事の両立をサポートするうえで非常に重要です。介護支援はベテラン従業員の離職防止にもつながり、ナレッジの喪失を防ぎやすくなります。
第三の賃上げとしては、法律で定められた制度に加えて、さまざまな支援を提供することが求められます。具体的には、以下のような施策がおすすめです。
企業内保育所の設置
外部保育サービスとの連携
ベビーシッターや介護サービス利用料の補助
法定を上回る休業制度や短時間勤務制度の導入 など
たとえば、企業内保育所を設置すれば、子を持つ従業員が送迎の時間を気にする必要がなくなり、生活にゆとりが生まれます。さらに、延長保育や病児保育などのサポートを提供すれば、小さな子どものいる従業員にとって心強い味方となるでしょう。
従業員の健康を維持・増進するための制度です。従業員が心身ともに健康にいられることで、生産性が高まるというメリットもあります。
第三の賃上げとしての健康支援では、法定の健康診断に加えて以下のような施策が求められます。
人間ドックやがん健診、婦人科健診の費用補助
インフルエンザ予防接種の費用補助
スポーツジムの利用補助
社内ジムの設置
外部カウンセリングサービスとの連携 など
上記のような受診料や施設利用料の直接的な補助だけでなく、長期的な医療費の削減によっても第三の賃上げを実現可能です。
自己啓発の支援も、第三の賃上げにつながります。従業員のスキルアップやキャリア形成をサポートすることで、企業の競争力も強化できるでしょう。また、自ら成長できる環境の提供により、従業員に長く働いてもらいやすくなります。
第三の賃上げとしては、以下のような施策が効果的です。
資格取得費用の補助
外部セミナーや研修への参加費の補助
社内研修の実施
e-ラーニングの導入
e-ラーニングシステムを一から構築するのはコストがかかるため、外部の学習サービスを利用するのがおすすめです。
ピアボーナスとは、従業員同士が互いに感謝や称賛を伝えるために、少額のポイントやインセンティブを送り合う仕組みです。コミュニケーションの促進やモチベーション向上など、さまざまな効果を期待できます。
ピアボーナスは金銭的な報酬だけでなく、感謝や称賛を受け取ることで心理的な報酬を得られるのがメリットです。
従業員が受け取ったポイントは商品券や福利厚生サービスに交換できるため、第三の賃上げの福利厚生として導入される場合もあります。
ピアボーナスの精度については、以下の記事で詳しく解説しています。

チームワークアプリ「RECOG」は、従業員同士で感謝・称賛のレターを贈り合うことができ、さらにレターにポイント(ピアボーナス)の付与も可能です。また、送受信者のほかにも、レターへの拍手でもポイントが加算されるため、手軽なアクションで参加できるのも魅力です。
金銭的な第三の賃上げとしてだけでなく、感謝や称賛、承認、尊敬といったポジティブな感情を促すため、心理的な報酬としての側面も期待できるでしょう。
RECOGの詳細は以下の資料で紹介しているので、ぜひダウンロードしてみてください。
第三の賃上げとは、福利厚生サービスの提供による新しい給与アップの仕組みです。 第三の賃上げでは、住宅費や食費などの補助により従業員の手取りを間接的に向上させます。第一・第二の賃上げとは異なり、税金や社会保険料がかからないケースがあるのも、第三の賃上げの大きなメリットです。 第三の賃上げは少額から始めやすいため、中小企業にも適しています。第三の賃上げに関する取り組みは企業のブランディングにも役立ち、求職者や投資家からのイメージもアップするでしょう。 第三の賃上げの施策は多岐にわたり、住宅手当や食事補助のほか、人間ドックや資格取得費用の補助など、さまざまな支援が考えられます。 第三の賃上げを導入するなら、ピアボーナスもおすすめです。従業員同士が商品券や福利厚生サービスに交換可能なポイントを付与し合うことで、コミュニケーションの活性化やモチベーションの向上など、さまざまな効果を期待できます。 ぜひ本記事の内容を参考に、従業員の満足度を高める第三の賃上げを導入してみてください。 \\編集部おすすめ記事//
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