しかし、人事評価への不満は適切な施策を講じることで解消できます。評価基準の明確化、評価者のスキル向上、定期的なフィードバックの実施など、取り組むべきポイントは明確になっています。
本記事では、人事評価への不満が生まれる要因から、放置した場合のリスク、具体的な解消施策、公平な評価を実現する手法までを徹底的に解説します。評価制度の見直しや運用改善を検討している人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

人事評価への不満を解消するためには、まずその原因を正しく理解することが重要です。不満の要因は一つではなく、評価基準、評価者、フィードバック、報酬との連動、信頼関係など、複数の要素が絡み合っています。ここでは、代表的な5つの要因を解説します。
人事評価への不満として最も多く挙げられるのが、「評価基準がわからない」「何をすれば評価されるのか不明」という声です。評価基準が曖昧なままでは、従業員はどのような行動や成果が求められているのかを理解できず、努力の方向性を定めることができません。
また、評価基準が公開されていない場合、「上司の主観で決まっているのではないか」「お気に入りの社員が優遇されているのではないか」といった疑念が生まれやすくなります。評価プロセスの透明性が確保されていないと、たとえ公正な評価が行われていたとしても、従業員の納得感を得ることは困難でしょう。評価制度への信頼を築くためには、基準の明確化と公開が不可欠となります。
同じような成果を出しているにもかかわらず、上司によって評価が異なるという状況は、従業員に強い不公平感を与えます。評価者によるばらつきは、評価基準の解釈の違いや、評価スキルの差、無意識のバイアスなどが原因で生じます。
たとえば、厳しい評価をつける上司のもとで働く社員と、甘い評価をつける上司のもとで働く社員では、同じパフォーマンスでも評価結果に差が出てしまいます。こうした不公平は、「配属先の運次第で評価が決まる」という認識を生み、評価制度そのものへの不信感につながります。組織全体で評価の目線を揃える取り組みが求められるでしょう。
評価結果だけを伝えられ、その理由や根拠の説明がない場合、従業員は納得感を得ることができません。「なぜこの評価なのか」「どこを改善すればよいのか」がわからなければ、評価を受け入れることも、次の成長につなげることも難しくなります。
特に、期待していたよりも低い評価を受けた場合、十分な説明がなければ不満は増幅します。また、評価期間中にフィードバックの機会がなく、期末になって初めて課題を指摘されるケースも問題です。「もっと早く言ってくれれば改善できたのに」という思いが、評価への不満として表れることになります。
高い評価を得ても昇給や昇進に反映されない場合、従業員は「評価されても意味がない」と感じてしまいます。評価制度と報酬・等級制度が連動していないと、評価へのモチベーションが低下し、制度そのものの形骸化を招きます。
また、年功序列の風土が残る組織では、若手社員がいくら成果を出しても、在籍年数の長い社員を追い越すことができないという不満が生じやすくなります。「頑張りが報われる」という実感が得られなければ、優秀な人材ほど他社への転職を検討するようになるでしょう。評価と処遇の連動は、人材の定着においても重要な要素となります。
どれだけ精緻な評価制度を整備しても、評価者と被評価者の間に信頼関係がなければ、評価結果への納得感は得られません。「この上司は自分のことをわかっていない」「普段の仕事ぶりを見ていないのに評価できるのか」という思いがあると、評価内容を素直に受け入れることが難しくなります。
信頼関係の欠如は、日常のコミュニケーション不足から生じることが多いものです。評価面談の時だけ話をするのではなく、普段から部下の仕事ぶりを観察し、声をかけ、関心を持っている姿勢を示すことが重要となります。信頼関係があれば、厳しいフィードバックも成長のためのアドバイスとして受け止められるようになります。

人事評価への不満は、「仕方がない」と放置してしまいがちですが、その影響は個人にとどまらず、組織全体に波及します。ここでは、不満を放置した場合に生じる4つのリスクを解説します。
評価への不満は、従業員の仕事に対するモチベーションを直接的に低下させます。「どうせ頑張っても評価されない」「努力しても報われない」という思いが生まれると、業務への取り組み姿勢が消極的になり、最低限の仕事しかしなくなる傾向が見られます。
モチベーションの低下は、個人の生産性だけでなく、創造性やチャレンジ精神にも影響を与えます。新しいアイデアを提案したり、困難な課題に挑戦したりする意欲が失われ、現状維持に甘んじるようになるでしょう。評価制度は従業員の行動を方向づける機能を持っているため、その不満が放置されると、組織全体の活力が失われていきます。
評価への不満は、一人の従業員にとどまらず、周囲に伝染していく性質があります。休憩時間や飲み会の場で不満が共有されると、「やっぱりこの会社の評価はおかしい」という認識が組織内に広がっていきます。
特に、成果を出している優秀な社員が不満を口にすると、その影響力は大きくなります。「あの人でさえ不満を持っている」という認識が広まれば、組織全体の士気が低下し、チームワークやコラボレーションにも悪影響を及ぼすでしょう。ネガティブな空気が蔓延した職場では、生産性の向上を期待することは難しくなります。
評価への不満は、離職の大きな要因となります。「正当に評価されない」という理由で転職を決意する人は少なくありません。特に、市場価値の高い優秀な人材ほど、自分を適切に評価してくれる環境を求めて転職する傾向があります。
優秀な人材の流出は、組織にとって大きな損失となります。採用・育成にかけたコストが無駄になるだけでなく、残された社員の負担増加、ノウハウの喪失、チームの戦力低下など、さまざまな悪影響が生じます。「評価に不満があるから辞める」という声が聞かれるようになったら、早急に対策を講じる必要があるでしょう。
評価への不満が極度に高まると、社内の不服申し立て制度の利用や、外部機関への相談、訴訟といった事態に発展する可能性もあります。特に、評価を理由とした降格や減給、解雇などの不利益な処分が伴う場合、法的なリスクは高まります。
過去には、人事評価の違法性を争う訴訟で企業側が敗訴した例もあり、評価基準の合理性や評価プロセスの公正性が問われるケースが増えています。訴訟に発展すれば、金銭的な損失だけでなく、企業イメージの毀損にもつながりかねません。こうしたリスクを回避するためにも、日頃から公正な評価制度の運用に努めることが重要となります。

人事評価への不満は、適切な施策を講じることで解消することができます。ここでは、多くの企業で効果が実証されている7つの施策を紹介します。自社の状況に合わせて、優先順位をつけながら取り組んでみてください。
評価への不満を解消する第一歩は、評価基準を明確にし、全従業員に公開することにあります。「何をすれば評価されるのか」「どのような行動や成果が求められているのか」を具体的に示すことで、従業員は努力の方向性を定めることができます。
評価基準は、抽象的な表現ではなく、できるだけ具体的な行動や成果の指標として示すことが重要です。また、基準を公開するだけでなく、説明会やハンドブックの配布などを通じて、従業員の理解を促進する取り組みも必要となります。基準が明確になれば、評価結果に対する納得感も高まるでしょう。
評価基準を公開しても、従業員が制度を正しく理解していなければ、不満の解消にはつながりません。「どのようなプロセスで評価が行われるのか」「自己評価はどのように活用されるのか」「評価結果はどのように処遇に反映されるのか」といった制度全体の仕組みを丁寧に説明することが大切です。
新入社員向けの研修だけでなく、制度改定時には全社員向けの説明会を実施したり、いつでも参照できるようにイントラネットにマニュアルを掲載したりするなど、継続的な情報提供が求められます。制度への理解が深まれば、「知らなかった」「聞いていない」という不満を未然に防ぐことができます。
評価者によるばらつきを減らすためには、評価者のスキルを向上させる研修が欠かせません。評価基準の解釈を統一し、評価に影響を与える無意識のバイアスを認識させ、適切なフィードバックの方法を習得させることで、評価の質と一貫性を高められます。
評価者研修では、座学だけでなく、模擬評価のワークショップやケーススタディを取り入れると効果的です。「このケースをどう評価するか」を複数の評価者で議論することで、視点のズレに気づき軌道修正が可能です。研修は一度きりではなく、定期的に実施して評価スキルの維持・向上を図ることが重要となります。
評価期間中に一度もフィードバックがなく、期末になって初めて評価結果を知らされるという状況は、不満の大きな原因となります。定期的なフィードバック面談を実施し、期中の段階で現状の評価や改善点を伝えることで、従業員は軌道修正の機会を得られます。
フィードバック面談は、期初・期中・期末の少なくとも3回は実施すると良いでしょう。期初には目標のすり合わせ、期中には進捗の確認と軌道修正、期末には評価結果の説明と次期への期待を伝えます。1on1ミーティングを定期的に実施している企業では、そのなかにフィードバックの要素を組み込むことも有効です。
評価結果が報酬や昇進に適切に反映される仕組みを整えることで、「頑張りが報われる」という実感を持たせることができます。評価制度と報酬制度、等級制度の連動を明確にし、高評価を得た場合にどのような処遇が期待できるのかを可視化しましょう。
ただし、報酬との連動を強調しすぎると、短期的な成果のみを追求する行動を助長するリスクもあります。バランスを取りながら、成果だけでなくプロセスや行動、能力開発への取り組みも評価対象に含めることが望ましいでしょう。評価と処遇の関係性を従業員に明示することで、評価制度への信頼感が高まります。
評価制度への不満は、表面化しにくいものです。従業員が直接声を上げることは少なく、静かに不満を抱えたまま離職を決意するケースも珍しくありません。定期的にサーベイを実施し、評価制度に対する満足度や課題を把握することが重要となります。
サーベイでは、「評価基準は明確か」「評価結果に納得しているか」「フィードバックは十分か」といった項目を設け、定量的に課題を可視化します。結果を分析して問題点を特定し、改善策を講じ、その効果を再度サーベイで確認するというサイクルを回すことで、評価制度の継続的な改善が可能になります。
評価への不満の背景には、「普段の頑張りが認められていない」という思いがあることも少なくありません。年に1〜2回の評価面談だけでなく、日常的に称賛や感謝を伝え合う文化を醸成することで、「自分の貢献は見てもらえている」という実感を持たせることができます。
称賛・感謝の文化は、上司から部下へだけでなく、同僚同士、部下から上司へと双方向で広げていくことが理想的です。「ありがとう」「助かったよ」「素晴らしい仕事だね」といった言葉が日常的に交わされる職場では、評価への不満も軽減される傾向があります。称賛を仕組みとして取り入れることで、こうした文化を意図的に育てることも可能です。

評価への不満を解消するためには、自社に適した評価手法を選択することも重要です。ここでは、多くの企業で導入されている代表的な5つの評価手法を紹介します。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合った手法を検討してみてください。
MBO(Management by Objectives)は、「目標管理制度」と訳される評価手法で、日本企業でも広く導入されています。期初に上司と部下が話し合って個人目標を設定し、期末にその達成度合いを評価する仕組みです。目標の達成度という明確な基準で評価するため、評価結果への納得感を得やすい特徴があります。
一方で、目標設定の難易度にばらつきがあると、公平性に課題が生じる可能性もあります。難しい目標を設定した人が低評価になり、簡単な目標を設定した人が高評価になるという逆転現象を防ぐため、目標設定時の上司による確認と調整が重要となります。
OKR(Objectives and Key Results)は、シリコンバレーの企業を中心に広がった目標管理のフレームワークです。Objectives(定性的な目標)とKey Results(定量的な成果指標)を設定し、高い目標に挑戦することを奨励する点がMBOとの大きな違いとなります。
OKRでは、達成率60〜70%を成功とみなすような野心的な目標設定を推奨しています。そのため、達成度をそのまま評価に反映するのではなく、チャレンジの姿勢やプロセスも含めて評価することが一般的です。変化の激しい環境でイノベーションを促進したい組織に適した手法といえるでしょう。
360度評価は、上司だけでなく、同僚、部下、場合によっては顧客や取引先など、複数の視点から評価を行う手法です。一人の評価者の主観に偏ることを防ぎ、より多角的で公正な評価を実現できるというメリットがあります。
特に、マネジメント能力やコミュニケーション能力、チームへの貢献度など、上司からは見えにくい側面を評価するのに有効です。ただし、評価者が多くなる分、運用の負荷は高まります。また、匿名性を担保しないと率直な評価が得られないため、制度設計には注意が必要となります。
コンピテンシー評価は、高い成果をあげている従業員に共通して見られる行動特性(コンピテンシー)を基準として評価する手法です。「何を達成したか」という成果だけでなく、「どのように行動したか」というプロセスを重視する点が特徴となります。
導入にあたっては、自社で高い成果を出している社員の行動を分析し、コンピテンシーモデルを作成する必要があります。「顧客志向」「チームワーク」「問題解決力」など、職種や等級ごとに求められるコンピテンシーを定義し、それに基づいて評価を行います。成果だけでなく行動を評価することで、長期的な人材育成にもつなげられるでしょう。
バリュー評価は、企業が掲げる価値観(バリュー)やビジョン、行動指針に沿った行動ができているかを評価する手法です。業績や成果だけでなく、「会社の一員としてふさわしい行動をとっているか」という観点から評価を行ないます。
バリュー評価を導入することで、組織の価値観を浸透させ、企業文化の醸成を促進する効果が期待できます。ただし、バリューの解釈が曖昧だと、評価がブレやすくなるリスクもあります。「このバリューを体現している行動とは具体的にどのようなものか」を明確にし、評価基準を統一することが成功の鍵となります。

評価制度の改善と並行して、日常的な称賛・承認の仕組みを取り入れることで、評価への不満をさらに軽減することができます。ここでは、称賛・承認が不満解消につながる理由と、仕組み化するメリットについて解説します。
評価への不満の根底には、「自分の頑張りを認めてもらえていない」という思いがあります。年に1〜2回の評価面談だけでは、日々の小さな貢献や努力を十分に拾い上げることは困難です。その結果、「こんなに頑張っているのに」という不満が蓄積していきます。
日常的に称賛や感謝を伝える文化があれば、従業員は「自分の仕事は見てもらえている」「貢献が認められている」という実感を持つことができます。この「承認欲求」が満たされることで、評価に対する過度な期待や不満が和らぎ、評価結果をより冷静に受け止められるようになります。称賛・承認は、評価制度を補完する重要な役割を果たすのです。
称賛・感謝を個人の意識や習慣に委ねるだけでは、定着させることは難しいものです。仕組みやツールを活用して、称賛を「見える化」し、日常業務に組み込むことで、継続的な取り組みが可能になります。
称賛を仕組み化するメリットは多岐にわたります。まず、誰が誰にどのような称賛を送っているかが可視化されることで、普段は見えにくい貢献や協力関係が明らかになります。また、称賛のデータを蓄積することで、評価面談の際の参考情報として活用することも可能です。さらに、称賛が活発に行われている職場では心理的安全性が高まり、離職率の低下やエンゲージメントの向上といった効果も期待できるでしょう。
称賛文化を支援するツール「RECOG」

称賛・感謝を贈り合う文化を醸成するためのツールとして、「RECOG」が多くの企業で活用されています。RECOGは、従業員同士が日常的に感謝や称賛のメッセージを贈り合うことができるコミュニケーションツールです。
RECOGの「レター」機能を使えば、「○○さん、先日のプレゼン資料の作成を手伝ってくれてありがとう」「○○さんの提案のおかげでプロジェクトがうまく進みました」といった感謝のメッセージを気軽に送ることができます。送られたレターは社内で共有され、誰がどのような貢献をしているかが可視化されます。
また、蓄積されたレターのデータは分析機能によって可視化され、評価面談や1on1の参考情報として活用することも可能です。「この半年間でどのような称賛を受けたか」を振り返ることで、より具体的で納得感のあるフィードバックにつなげることができるでしょう。
RECOGの詳細は以下の資料で紹介しているので、ぜひダウンロードしてみてください。
人事評価への不満を放置すると、モチベーションの低下、組織全体の生産性低下、優秀な人材の流出、さらには訴訟リスクといった深刻な問題につながりかねません。不満を解消するためには、評価基準の明確化と公開、評価者研修の実施などのほか、称賛文化の醸成といった施策が有効です。また、MBO、OKR、360度評価、コンピテンシー評価、バリュー評価など、自社に適した評価手法を選択することも重要となります。
評価制度の改善と並行して、日常的な称賛・承認の仕組みを取り入れることで、「自分の頑張りは認められている」という実感を従業員に持たせることができます。RECOGのようなツールを活用すれば、称賛文化を効率的に醸成し、評価への不満軽減とエンゲージメント向上の両方を実現できるでしょう。自社の状況を踏まえ、できることから取り組みを始めてみてください。