身体的・精神的・社会的に満たされた状態を指す「ウェルビーイング(Well-being)」は、近年のビジネスシーンで重要視されているキーワードです。従業員の幸福度が高くなれば仕事に対するモチベーションや組織への帰属意識が高まり、生産性や定着率の向上が期待できます。
従業員一人ひとりの状態を把握して適切なサポートを提供することは難しく、さらに担当者の負荷も問題視されています。この課題を解決する鍵となるのが、AIの活用です。
本記事では、AIがどのようにウェルビーイング向上に寄与するのか、実際の活用シーンや導入可能なツールについて、具体例を交えながら詳しく解説します。

AI技術の進化は、単なる業務効率化だけでなく、私たちの「働きやすさ」や「心身の健康」にも大きな変革をもたらしています。なぜAIがウェルビーイングに効果的なのか、主な4つの理由を見ていきましょう。
AIの最もわかりやすい効果は、単純作業や定型業務の自動化です。データ入力、議事録作成、スケジュール調整などをAIに任せることで、従業員は長時間労働から解放されます。
業務自動化は従業員の時間的・精神的な余裕を生み出し、家族と過ごす時間や趣味の時間が増え、ワークライフバランスが整います。結果として、心身のリフレッシュが可能になり、仕事への意欲も向上するという好循環が生まれるでしょう。
メンタルヘルス不調は、本人も気づかないうちに進行していることが少なくありません。AIは、勤怠データやPCのログ、チャットツールでの発言回数などの膨大なデータを分析し、ストレスの兆候を早期に検知できます。さらに文章解析技術により、メールやチャットの文面から感情状態を読み取り、ストレスや不安の兆候の検出も可能です。
「最近、発言がネガティブになっている」「休憩時間が極端に減っている」といった微細な変化をAIがキャッチして人事担当者や管理職へアラートを出すことで、休職や離職を未然に防ぐサポートが可能になります。
人間がカウンセラーとして対応する場合、相談できる時間は限られます。しかし、AIチャットボットであれば、深夜や早朝、休日であっても24時間365日、即座に応答が可能です。
「夜中に急に不安になった」「休日に仕事の悩みを吐き出したい」といった時、AIが話し相手になることで、孤独感を軽減し、心理的な安心感を提供します。また、夜間や休日に体調不良を感じた際、AI健康相談システムが症状を分析し適切な対処法をアドバイスします。
健康状態やストレスの感じ方は人それぞれ異なります。AIは、個人の体質や健康目標、さらにはウェアラブルデバイスなどから収集した個人のバイタルデータ(睡眠時間、歩数、心拍数など)を学習し、その人だけにパーソナライズされたアドバイスを提供できます。
一律の健康指導ではなく、「今日は睡眠不足気味なので、早めに休憩を取りましょう」といった個人の状況に合わせた具体的な行動指針や、「昼食後に5分間散歩しましょう」という実現可能な目標設定などを行ない、無理のない範囲で達成感を積み重ねながら習慣化を促進します。

日常的な業務シーンにおいて、AIがどのように従業員の健康と幸福を支えているか、具体的な事例を紹介します。
AIは労働時間の管理だけでなく、業務負荷の評価と最適化を行ない、従業員の過重労働を未然に防ぎます。単純な労働時間だけでなく、業務の難易度、締切までの期間、同時進行プロジェクト数、会議時間などの総合的な分析により、実質的な業務負荷を算出します。
また、AIがPCの稼働状況やスケジューラーを監視し、設定された就業時間を超えそうになると、本人や上司に警告メッセージを送信します。
ストレスは本人も気づかないうちに蓄積し、心身の健康をむしばみます。AIは多角的なデータ分析により、ストレスを早期に検出し、適切な対処を可能にします。
たとえば音声解析技術でWeb会議での発言を分析したり、テキストマイニングを活用して日報やチャットの内容を解析したりすることで、ストレス状態を可視化。定期的なストレスチェックを待たずに、日々の変化をモニタリングできるようになるでしょう。
「上司や同僚には相談しにくい」という悩みも、相手がAIであれば気兼ねなく話せる場合があります。判断や批判を恐れることなく相談でき、人間のカウンセラーとは異なる特性を活かした価値を提供できます。
相談履歴を長期的に記憶しているため、過去の相談内容を踏まえた継続的なサポートが可能です。
画一的な健康指導では効果が限定的です。AIは個人の特性を深く理解し、実行可能で効果的な健康改善プランを提供できるため、従業員の健康的な行動変容を自然に促進します。
たとえば栄養管理において、AIは個人の健康データ、食の好み、アレルギー、生活パターンを考慮した食事提案を行ないます。また、運動不足の際には、その人の体力レベルに合ったエクササイズ動画をレコメンドするなど、生活習慣の改善を伴走型で支援します。
個人のケアだけでなく、組織全体のウェルビーイングを戦略的に管理することが、持続的な成果を生み出す鍵となります。AIは組織データを多角的に分析し、組織全体のウェルビーイングに関して価値ある示唆や提案を提供します。
たとえば、部署別・年代別・職位別のウェルビーイング指標を詳細に分析し「営業部門のストレス指数が全社平均より25%高い」「30代従業員の離職リスクが上昇傾向」といった具体的な課題を特定します。さらに相関分析により「残業時間とエンゲージメントの負の相関」「上司との1on1頻度と従業員満足度の正の相関」など、因果関係を明らかにできるためウェルビーイングの戦略を立てやすくなるでしょう。
また、「誰と誰がよく話しているか」「誰が孤立しているか」といった組織のコミュニケーション活性度をAIが解析し、組織内のハブとなる人物を見つけたり、ケアが必要な従業員を特定したりと、組織全体の健全性を高める施策に役立てます。

実践的なウェルビーイング向上を実現するために、様々なAI搭載ツールが開発されています。ここでは、日本市場で高い評価を得ている代表的なツールを、その特徴と活用方法とともに紹介します。
従業員同士が感謝・称賛を贈り合い、組織のコミュニケーション活性化やエンゲージメント向上、さらには称賛文化の醸成を実現できるチームワークアプリです。感謝・称賛のメッセージが組織内を飛び交うことでポジティブな雰囲気が醸成され、「褒められて嬉しい」「この会社なら活躍できる」と心理的・社会的に満たされた状態を作り出すことができます。
組織のエンゲージメントサーベイやストレスチェックなどを実施できるツールです。わずか数分のアンケート回答をもとに、AIが組織の課題特定や改善策の提案を行ないます。さらに個人結果の分析もできるため、フォローが必要な従業員を特定して早期のアプローチにつなげることも可能です。
心理学理論をベースに個人のメンタルヘルスケアに特化したスマホアプリです。AIチャットボットが日々の感情の記録や振り返りをサポートします。ユーザーの入力内容に応じてAIが共感したり、客観的なフィードバックを返したりすることで、心のセルフケアを習慣化させます。
AIは、業務効率化による時間の創出、メンタル不調の早期発見、24時間の相談対応など、多角的に私たちのウェルビーイングを支えてくれます。
しかし、AIはあくまでツールです。AIが導き出したデータや時間を活用し、最終的に「人」がどのように関わり合い、互いを尊重できる環境を作るかが最も重要です。
まずは自社の課題に合ったAIツールや、コミュニケーションを促進する「RECOG」のようなアプリを取り入れ、テクノロジーと人間らしさが融合した、誰もが幸せに働ける職場づくりを始めてみてはいかがでしょうか。